*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.34
◆自分のことがうまく理解できないもう一つの例
さっきの引用第1部には、Nさんが自分自身のことをうまく理解できなくなっているもうひとつの事例が記してありましたよね。こう書いてありましたね?
同じ時期、日中、自室にいるとき、家の中で女性の顔のようなものが見えるという幻視の症状も出現している
って。
思春期になると性的な関心も増してきます。Nさんは日中、自室にいるとき、女性のことをしきりに考えるようになっていたのではないでしょうか。女性のことを夢中で思い浮かべるようになっていたのではないでしょうか。ひょっとすると、目のまえに問題集を開けながらも、女性のことに気をとられるあまり、勉強に集中できないといったことに、しばしば、なっていたのかもしれませんね。
みなさんも中学生の頃、そうして勉強がそっちのけになってしまったこと、ありませんか(俺はありませんでしたけど)?
Nさんは勉強中、頭のなかで何度もおなじ曲をつい再生してしまうということの次に、そういう気の散り方がするようになっていたのかもしれませんね?
でも、Nさんにしてみれば、自分が、勉強しようとしているそんなときに女性のことを考えたりするはずはなかったのではないでしょうか。
いや、いっそ、Nさんのその見立ても、語弊があるかもしれませんけど、先ほど同様、こう言い換えてしまいましょうか。そのときNさんには、自分が女性のことを考えているはずはないという自信があったんだ、って。
で、その自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。
女性の顔のようなものが勝手に目のまえに浮かび上がってくる、って。
2021年8月13日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/8)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.2)。
- part.1(短編NO.33)
- Part.3(短編NO.35)
- Part.4(短編NO.36)
- Part.5(短編NO.37)
- Part.6(短編NO.38)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。