(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(7/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


Nさんは「理解不可能」なんかではなかった

 さて、ここまで、「思春期に発症し典型的な経過がみられた統合失調症のケース」*1とされるNさんの事例を計6回に分けて、見てきました。


 みなさんどうでした? 統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのNさんがほんとうは理解可能であることが十分確認できたのではありませんか。


 Nさんの身に起こっていたのは思春期にはしばしばあることばかりだったのではありません? 勉強しなければならないのに、気が散って勉強が手につかない。勉強そっちのけで女性に夢中になってしまう。成績が悪くなり、落ちこぼれて、ついには「社会に自分の居場所は無い」と肩身の狭さを感じたり、通りすがりのひとにすら劣等感を覚えたりするまでになる。受験に2年連続で失敗したあとも状況は変わらず、時間だけは刻一刻と過ぎていき、親にも見捨てられたような気分になって、果ては死にたくなる。


 そういうことは、思春期にはしばしばあることなのではありませんか(誰か作家がそうした鬱屈とした思春期を文章にしていそうですね)。みなさんのなかにも、自殺を企図したかどうかは別として、そのように屈託の多い思春期を過ごしたことのあるひと、たくさんいるのではないでしょうか。


 ただNさんにはその上、自分のことがうまく理解できていないということはありましたよ。それで、ひととすれ違いざま、悪口が聞こえてくるとか、女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってくるとかと言っていたわけですね? だけど、多かれ少なかれ、誰にだって、自分のことがうまく理解できないなんてことは、あるのではありません? 特に、人間性が急速に変わってくる思春期なんかには、ね?


 いや、もちろん、Nさんのことを完璧に理解できたと言うつもりは俺にはサラサラありませんよ。むしろ、多々誤ったふうに決めつけてきてしまったのではないかとしきりに気が咎め、密かに反省しているくらいですよ。でも、そうは言ってもさすがに十分明らかになりましたよね? Nさんがほんとうは「理解可能」であるということは?


 みなさんのように申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、Nさんのことが完璧に理解できるということは、十分示されましたよね?


 Nさんのことを(精神)医学は理解できません。だけどそれは単に、(精神)医学の人間理解力が未熟であるということにすぎないと、もはやハッキリしましたね?


(精神)医学がまず為すべきは、Nさんのことを理解できるようになるまで、おのれの人間理解力を磨くことだと、もはや断言して構いませんね(医学がその気になってそうした努力をはじめれば、たちまち、Nさんのことを俺なんかより断然うまく理解できるようになるというのは、火を見るより明らかなことではありませんか)?


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今回の最初の記事(1/9)はこちら。


Nさんのこの事例は全6回でお送りしています。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.3(短編NO.35)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)

   今回


このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

*1:岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、p.122、2010年