*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38
◆(精神)医学はNさんのことをお手軽に「理解不可能」と決めつけ、差別してきた
だけど、(精神)医学は、そうした努力をつゆしてきませんでした(人間のことを理解したいという情熱が無いのでしょう)。そんな(精神)医学は、ほんとうは「理解可能」であるNさんのことを、早々に、「人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎」(理解不可能)だとお手軽に決めつけ、差別してきました。
こんなふうに、ね?
Nさんは、嫌がらせなんか実際はされていないのに、学校や予備校でされたと言っている。普通じゃない。理解できない。
彼は、ひととすれ違いざま、「うぜえ」とか「バカ」という声が聞こえてくると言っている。普通じゃない。理解できない。
勉強中、同級生たちの嫌がらせの声が聞こえたと言っている。普通じゃない。理解できない。
女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってくることもあったと言っている。普通じゃない。理解できない
隣の患者の夜中のいびきがうるさいと言って、大声で怒鳴った。普通ひとはそんなことはしない。理解できない。
「ハエが頭の中で飛び回っている」感じがすると言っている。言っていることが普通じゃない。理解できない、って。
そのようにNさんのことを不当にも「理解不可能」と決めつけるというのは、そのNさんのことを、異常と決めつけるということを意味します。そのことについては以前確認しましたよね。ひとを「理解可能」と認定するというのは、そのひとのことを正常と判定することであるいっぽう、ひとを「理解不可能」と認定するのは、そのひとのことを異常と判定することである、って。
- ア.ひとを正常と判定する=そのひとのことを「理解可能」と認定する
- イ.ひとを異常と判定する=そのひとのことを「理解不可能」と認定する
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そのときの記事です。後日もっとわかりやすい記事を書きます。
その、後日のもっと簡単な記事、はこちら。
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したがって、(精神)医学は、ほんとうは「理解可能」で、正常であるNさんのことを、理解できるようになろうと努力することもなく、お手軽に、「理解不可能」、すなわち異常と決めつけ、差別してきた、と言えることになりますね?
現に、先ほどの引用文の最後で(精神)医学は、このたび「理解可能」であることが確認できたNさんの体験を、幻聴や妄想という、脳がおかしくなって起こる異常と決めつけていました。
このNさんの例からもわかるように、統合失調症の症状として特徴的であるのが、幻聴と妄想である。
幻聴は患者の脳の中で起きている症状である。自分の脳内で生成した「声」や「音」である。しかし、幻聴が聞こえている本人は、外部から音声が入力しているという感覚を持っている。つまり、「脳」という自己の内部で起こっている出来事が、自己に所属していると認識できないわけである。
幻聴について興味深い点は、幻聴の内容がそれほどバラエティに富んだものではないことである。患者の経歴、職業、あるいは国籍さえも関係しないことが大部分で、むしろ画一的というのが適当であろう。Nさんの場合も、典型的な被害妄想に基づく幻聴が出現していた。幻聴に関連する脳の病巣としては、画像研究などから側頭葉の異常が指摘されているが、明確な結論は得られていない(岩波明『精神疾患』角川ソフィア文庫、2018年、pp.123-130、2010年、ただしゴシック化は引用者による)。
脳がおかしくなって起こる「異常」現象扱いをしていますよね。
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/9)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りしています(今回はpart.6)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。