(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

ひとのことを、やれ正常だ、やれ異常だ、とさんざ言ってきたけど、はて、そもそも、正常、異常ってどういう意味なんだっけ?

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 医学なるものに触れ、一番最初にひとが疑問に思うのは、「正常異常という言葉の意味は果して何なのだろう」ということではないでしょうか。


 だって、医学は、健康を正常であること病気を異常であることと独自に定義づけてやってきたじゃないですか。


〈参考:その独自の定義についてはこちらで書きました。〉


 だけど、正常、異常という、そんな大事な基礎的な言葉の意味を、みなさん、教わったことありますか。


 俺はありませんよ?


 たとえば、正常、異常ということについてひとが、こんなことを言うのは、よく耳にしますよ。


 正常と異常のあいだの線引きはむつかしい。どこからが正常で、どこからが異常なのかは正直よくわからない、って。


 要するに、こんな感じの言説です。

精神病者と精神的に健康な者の違いは、種類ではなく程度の問題である。正気と狂気の境目はあやふやである。大半の人はたまに軽い精神異常を起こすことがあるし、精神障害者も時には非常に「正常」である。精神分裂病者とうつ病者は社会でも有数の創造力と生産性を持つ可能性がある。精神病で今、能力を奪われている人が明日は回復し、十分な生産性を得て正常な暮らしを送ることも可能である。診断はあくまで主観的なものである。(ヒューG.ギャラファー『【新装版】ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』長瀬修訳、現代書館、2017年、p.67、1995年)。


 でも、正常、異常という区分けに厳しい検証の視線を注いでいるそうした言説に出くわしても、その言説の前にも後にも、正常、異常という言葉の意味を明らかにしようとしている部分を見つけることは、いまのいままで、できた試しが俺には一度もありません*1


 いやあ、これは一体どういうことなのでしょうね? もしかして、もしかすると、これはこういうことなのでしょうか。


 世の中のひとはみな、正常、異常という言葉の意味を実はよく知っている。ただ、その意味があまりにも当たり前すぎるあまり、わざわざ口にしないだけだ(えっ、そうだったの?)。


 あるいは、反対にこういうことである可能性はあるでしょうか。


 すなわち、みんな、正常、異常という言葉の意味をほんとうはよくわかっていないが、何となく勘で、ひとのことを正常と言ったり、異常と決めつけたりしてきたんだ(あちゃあ、なんという不誠実......)。


 真相はそのうちのどちらだと、みなさん、思います? それとも、真相はこれらふたつとはまったく別の何かだと考えますか?


 ともあれ、そんな、誰もが口をつぐんでなぜか語ろうとしない、正常異常という言葉の意味について先日下の記事で俺なりに考えてみました。正常、異常という言葉の意味はそも、何なのでしょうね。


 ちなみに、上記の記事より込み入った仕方で、正常、異常という言葉の意味について以前に考察した記事はこちらです。

(了)

 

 

*1:たとえば、下の記事も、正常、異常という区分けにたいし、非常に厳しい検証の視線を注いでいて、「あ、今度こそは」と、読んでいて、期待で胸が躍りましたが、残念なことに、刺激的なその文章内でも、正常、異常という言葉の意味を明らかにしようとしている部分に出くわすことはできませんでした(悪口を言っているのではありませんよ)。

統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(9/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


◆診断という名の差別で患者を傷つける

 このように、ほんとうは「理解可能」で、正常であるNさんのことを、(精神)医学は、不当にも「理解不可能」と決めつけ、異常であるということにして、差別してきました。人生に挫折しそうになっているなか、精神科で権威者からそうした差別を受け、Nさんは果してどう感じたことでしょうね?


 前のほうでも一度言いましたように、余計、追い詰められることになったのではないでないかと、みなさん思いません?


 そうした差別を医学という名の権威から受けていたNさんは、人間の尊厳を踏みにじられたような屈辱を覚えていたのではないかと俺は想像します。実際、浪人2年目に入院することになったふたつ目の精神科での一場面が先ほど、こう書かれていました。

それでも急に看護スタッフに対して、些細なきっかけから、「何か不安で死にたくなっちゃった」と訴えることもあれば、「先生クスリをくれた後ぼくのことを笑っていたでしょう」「ハエが頭の中で飛び回っている」などと被害妄想や体感幻覚を思わせる発言が続いていた岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、p.129、ただしゴシック化は引用者による)。

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

 


 読みました? Nさんが精神科医に笑われているように感じていた旨、記してありましたよね? ほんとうは「理解可能」で、正常であるにもかかわらず、不当にも「理解不可能」と決めつけられ、異常扱いされていたら、そりゃあ大抵誰だって、そんなふうに、バカにされていると感じるものなのではありませんか?


 そのようにバカにされていると感じるのはほんとうに、被害「妄想」に当たるでしょうか?


 いや、決して「妄想」なんかには当たりませんね? 現にNさんは、(精神)医学に差別されるという被害をこうむっていますよね? そのことをこのたび、しっかりみなさんと実地にひとつひとつ確認してきましたね?


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次回は5月3日(月)21:00頃にお目にかかります。2ヶ月ほど、お休みを頂きますね。


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Nさんのこの事例は全6回でお送りしました。

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統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(8/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


◆(精神)医学はNさんのことをお手軽に「理解不可能」と決めつけ差別してきた

 だけど、(精神)医学は、そうした努力をつゆしてきませんでした(人間のことを理解したいという情熱が無いのでしょうね)。そんな(精神)医学は、ほんとうは「理解可能」であるNさんのことを、早々に、「人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎」(理解不可能とお手軽に決めつけ、差別してきました。


 こんなふうに、ね?


 Nさんは、嫌がらせなんか実際はされていないのに、学校や予備校でされたと言っている。普通じゃない。理解できない。


 彼は、ひととすれ違いざま、「うぜえ」とか「バカ」という声が聞こえてくると言っている。普通じゃない。理解できない。


 勉強中、同級生たちの嫌がらせの声が聞こえたと言っている。普通じゃない。理解できない。


 女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってくることもあったと言っている。普通じゃない。理解できない


 隣の患者の夜中のいびきがうるさいと言って、大声で怒鳴った。普通ひとはそんなことはしない。理解できない。


「ハエが頭の中で飛び回っている」感じがすると言っている。言っていることが普通じゃない。理解できない、って。


 そのようにNさんのことを不当にも「理解不可能と決めつけるということは、そのNさんのことを、異常と決めつけるということを意味します。そのことについては以前確認しましたよね。ひとを「理解可能」と認定するというのは、そのひとのことを正常と判定することであるいっぽう、ひとを「理解不可能」と認定するのは、そのひとのことを異常と判定するということである、って。

  • ア.ひとを正常と判定する=そのひとのことを「理解可能」と認定する
  • イ.ひとを異常と判定する=そのひとのことを「理解不可能」と認定する


〈参考:そのときの記事です。後日もっとわかりやすい記事を書きます。〉


 したがって、(精神)医学は、ほんとうは「理解可能」で、正常であるNさんのことを、理解できるようになろうと努力することもなく、お手軽に、「理解不可能」、すなわち異常と決めつけ差別してきた、と言えることになりますね?


 現に、先ほどの引用文の最後で(精神)医学は、このたび「理解可能」であることが確認できたNさんの体験を、幻聴妄想という、脳がおかしくなって起こる異常と決めつけていました。

 このNさんの例からもわかるように統合失調症の症状として特徴的であるのが、幻聴妄想である。


 幻聴は患者の脳の中で起きている症状である。自分の脳内で生成した「声」や「音」である。しかし、幻聴が聞こえている本人は、外部から音声が入力しているという感覚を持っている。つまり、「脳」という自己の内部で起こっている出来事が、自己に所属していると認識できないわけである。


 幻聴について興味深い点は、幻聴の内容がそれほどバラエティに富んだものではないことである。患者の経歴、職業、あるいは国籍さえも関係しないことが大部分で、むしろ画一的というのが適当であろう。Nさんの場合も、典型的な被害妄想に基づく幻聴が出現していた。幻聴に関連する脳の病巣としては、画像研究などから側頭葉の異常が指摘されているが、明確な結論は得られていない(岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、pp.123-130、2010年、ただしゴシック化は引用者による)。

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

 


 脳がおかしくなって起こる「異常」現象扱いをしていますよね。


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統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(7/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


Nさんは「理解不可能」なんかではなかった

 さて、ここまで、「思春期に発症し典型的な経過がみられた統合失調症のケース」*1とされるNさんの事例を計6回に分けて、見てきました。


 みなさんどうでした? 統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのNさんがほんとうは理解可能であることが十分確認できたのではありませんか。


 Nさんの身に起こっていたのは思春期にはしばしばあることばかりだったのではありません? 勉強しなければならないのに、気が散って勉強が手につかない。勉強そっちのけで女性に夢中になってしまう。成績が悪くなり、落ちこぼれて、ついには「社会に自分の居場所は無い」と肩身の狭さを感じたり、通りすがりのひとにすら劣等感を覚えたりするまでになる。受験に2年連続で失敗したあとも状況は変わらず、時間だけは刻一刻と過ぎていき、親にも見捨てられたような気分になって、果ては死にたくなる。


 そういうことは、思春期にはしばしばあることなのではありませんか(誰か作家がそうした鬱屈とした思春期を文章にしていそうですね)。みなさんのなかにも、自殺を企図したかどうかは別として、そのように屈託の多い思春期を過ごしたことのあるひと、たくさんいるのではないでしょうか。


 ただNさんにはその上、自分のことがうまく理解できていないということはありましたよ。それで、ひととすれ違いざま、悪口が聞こえてくるとか、女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってくるとかと言っていたわけですね? だけど、多かれ少なかれ、誰にだって、自分のことがうまく理解できないなんてことは、あるのではありません? 特に、人間性が急速に変わってくる思春期なんかには、ね?


 いや、もちろん、Nさんのことを完璧に理解できたと言うつもりは俺にはサラサラありませんよ。むしろ、多々誤ったふうに決めつけてきてしまったのではないかとしきりに気が咎め、密かに反省しているくらいですよ。でも、そうは言ってもさすがに十分明らかになりましたよね? Nさんがほんとうは「理解可能」であるということは?


 みなさんのように申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、Nさんのことが完璧に理解できるということは、十分示されましたよね?


 Nさんのことを(精神)医学は理解できません。だけどそれは単に、(精神)医学の人間理解力が未熟であるということにすぎないと、もはやハッキリしましたね?


(精神)医学がまず為すべきは、Nさんのことを理解できるようになるまで、おのれの人間理解力を磨くことだと、もはや断言して構いませんね(医学がその気になってそうした努力をはじめれば、たちまち、Nさんのことを俺なんかより断然うまく理解できるようになるというのは、火を見るより明らかなことではありませんか)?


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*1:岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、p.122、2010年

統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(6/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


◆かたや医学が争点にするのは何か

 その、苦しくないか苦しいか、を争点にするというのは、Nさんもおなじだったのでないでしょうか。1浪生の11月にはじめてかかった精神科や、2浪生の夏か秋頃に入院することになったふたつ目の精神科で、Nさんはこうしたことを訴えていたのではなかったでしょうか。


 同級生たちの嫌がらせがひどくて勉強が手につかない。


 予備校に行っても、嫌がらせをされる。


 ひととすれ違いざま、「うぜえ」とか「バカ」とか言われる。


 女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってきて勉強等に集中できない。


 死にたい。


 そうしてNさんはしきりに、苦しさを訴えと共に、苦しまないで居てられるようになることを要望する眼差しを暗に医師に送っていたのではないでしょうか。


 だけど、Nさんのそうした「訴え」や「要望」が医師に届くはずはなかった。


 というのも、医学が、やれ健康だ、やれ病気だとしきりに言うことで争点にしてきたのは実は、苦しくないか苦しいか、ではなかったわけです。医学が、そう言うことで争点にしてきたのは実は、正常か異常か、だった。医学は、健康とは正常であること病気とは異常であることと独自に定義づけてやってきたわけです。


 ほら、(精神)医学が診察室や病室でする行為にはふたつありますね? ひとつは診断、もうひとつは治療ですね? そのどちらでも、(精神)医学が争点にするのは、正常か異常か、ではありませんか? (精神)医学にとって、診断とは、ひとを正常と異常のどちらに当たるのか見極めることだし、治療もまた、診断で見つかった異常を無くすことを目的とするもの、ですね?


 つまり、Nさんの、苦しくないか苦しいかを争点にする声は正常か異常かを争点にする医学に忠実な医師たちの胸のなかには素直には入って行っていなかったのではないか、ということですよ。で、数々の苦しみに苛まれてきていたNさんが夜中、隣の患者のいびきに、とうとう堪忍袋の緒を切らし、大声で怒鳴り出しても、医師にはただ「急に怒り出した」と奇異に感じられただけだったのではないか、って。


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統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(5/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


◆Nさんが争点にしていたのは何か

 いま、こう言いましたよ。Nさんは苦しさを訴え」、苦しまないで居てられるようになることを要望していたがその声は医師や看護師には届いていなかったのではないか、って。


 せっかくですし、この機会に、いま言ったそのことが何を意味するのか、今後のために、ちょっと立ち止まって考察しておきましょうか。


 そもそも、ふだんのみなさんにとって、健康や病気という言葉は何を意味します?


 健康とは「健やかに康らかに」と書きますね? ふだんのみなさんにとって、健康という言葉は、苦しんでいないということを表現するものではありませんか。


 いっぽう病気とは、「気を病む」と書きますよね? 「気を病む」とは苦しむということですね? ふだんのみなさんにとって、病気という言葉は、苦しんでいるということを、その苦しみが手に負えないようなときに表現するものではありませんか。


 つまり、みなさんがふだん、やれ健康だやれ病気だとしきりに言うことで争点にするのは苦しくないか苦しいか(快いか、苦しいか)、ではありませんか。


 苦しくないか苦しいか、を争点にするそんなみなさんの姿勢は、もちろん、病院の診察室や病室のなかでも変わらないものと思われます。


 みなさんは、病院の診察室や病室で、医師相手に、目が見えにくいとか、息がしにくいとか、気分が鬱々とするとかと言って、苦しさを訴えますね? で、そのとき、目がよく見えるようになりたいとか、息がしやすくなりたいとか、気分が晴れるようになってほしいとかと言って、苦しまないで居てられるようになることを要望しますね?


 そうして、みなさんは、苦しくないか苦しいか、を診察室や病室でも変わらず、争点にしますね?


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統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.6(統合失調症理解#16)(4/9)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38


 けど、そうした苦痛がかなりのものであるということは横に置いておいたとしても、やっぱりNさんが大声で怒鳴ったのは自然な成り行きだったと思いません? ここまで、Nさんは、かなり苦しんできていますよね。Nさんが精神科医にしきりに苦しさを訴えていたらしいことが、いま読ませてもらっている事例報告からヒシヒシと伝わってきていませんか? Nさんは精神科医にこうしたことを「訴え」ていたのではないでしょうか。


 予備校に行っても、嫌がらせをされる。


 ひととすれ違いざま、「うぜえ」とか「バカ」とか言われる。


 女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってきて勉強等に集中できない。


 死にたい、


 って。それらは、苦しさを訴えものではありませんか。Nさんは、苦しまないで居てられるようになることを要望する眼差しを暗に医師相手に送りながら、そうした苦しさを「訴え」ていたのではないかと、みなさん、おのずと推測されません?


 そんなに苦しんできているなか、さらに精神病院に入院させられ、嫌で嫌で仕方がないその場所で隣の患者に夜中、いびきまで聞かされて、苦しめられる。そりゃあ、「うるせーんだよ」のひと言くらい、大声で怒鳴りたくもなりますね?


 だけど、Nさんの、苦しさを「訴え」、苦しまないで居てられるようになることを「要望」するそうした声は医師には届いていなかったのではないでしょうか。届いていなければこそ、Nさんがそうして大声で怒鳴ったのが、医師には奇異なことと映ったのではないでしょうか。


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  • part.3(短編NO.35)

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