(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

「テレビでアナウンサーがわたしの噂話をしている」を、「妄想」にすぎないと考えないみなさんは、どのように理解しようとするか(7/10)【統合失調症理解#20】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.63


◆電車で隣に座っていた人の貧乏ゆすりを自分への暗号だと信じ込む

 その貧乏ゆすりを見たとき、当該女性の脳裏に、自分への暗号だという考えが閃いた。そう閃くだけの何か十分な理由があったのだろうと、ここまで考察を進めてきたみなさんはもはや推測するようになっています。その理由を聞くことができれば、「なるほど、それなら、自分への暗号だという考えが閃くのも頷けるな」と。


 それに、そもそも当該女性はこの時点ですでに「テレビがわたしの噂話をしている」と受けとるようになっている(発想①)。さらに恐らく「周囲に監視されている」、とも(発想②)。そうした状況からもみなさんは、ハリウッドのスパイ映画のなかの、敵に追われる主人公(トム・クルーズが演じていそうな?)のように、隣に座っているひとの貧乏ゆすりを目にしたとき、当該女性の脳裏に、自分に向けられた暗号だという考えがふと閃いたとしても、何もおかしなところはないと想像し、こう続けます。


 とはいえ、脳裏に閃いたその考えを当該女性は疑ってみても良かったのでないか。実際、「自分に向けられた暗号だ」というその考えが正しいか、それとも誤っているかを決めるのに必要なだけの情報を、当該女性はそのとき持っていなかった。なら、そのように疑うのはむしろ論理の要請するところだったのではないか。


 しかし、当該女性がその考えを疑うことはなかった。


 なぜか、とみなさんは問う。


 そのとき当該女性には、やはり心に余裕がなかったのかもしれない。みなさんはそう答える

  • イ.隣のひとの貧乏ゆすりはわたしに向けられた暗号だという考えが閃く。
  • ロ.心に余裕がなかったかして、その考えをあくまでも疑うことがない。


 で、当該女性は、「隣に座っているひとの貧乏ゆすりは自分に向けられた暗号だ」というその考えが閃いた瞬間、そうに違いないと速断してしまったのではないか。


 ここでも、発想①や②の場合同様、「自分の考えをあくまでも疑うことがない」という姿勢がみなさんには認められるように思われる、という次第です。


 以上、統合失調症による「妄想」と見なされ、およそ人間には理解不可能なものという烙印を押されてきた、当該女性の発想①②③はむしろ理解可能であるらしいと、みなさんは手応えを覚えることになりました。


 みなさんの身に普段起こるのとおなじようなことが、当該女性にも起こっていたにすぎないにちがいない、と。


 そんなみなさんは、最後にここから、おなじく統合失調症による「妄想」として扱われてきた、当該女性の、つぎの残りふたつの発想の検証にとりかかります。

  • ④周囲のすべてが敵に思える
  • ⑤自身の思考と、外の出来事がリンクする感覚がし、奇跡の連続と思われた





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