(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

「テレビでアナウンサーがわたしの噂話をしている」を、「妄想」にすぎないと考えないみなさんは、どのように理解しようとするか(4/10)【統合失調症理解#20】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.63


 当該女性は、テレビでアナウンサーが話しているのを聞き、劣等感を覚えたのかもしれない。たとえば、自分の至らなさを痛感させられたり、自分が失敗した場面を思い出させられたりしたのかもしれない。


 けれども、当該女性からすると、そうした場面で自分が、そんなふうに劣等感を覚えたりするはずはなかった。


 言い換えるとつまり、そのとき当該女性には「自信があった劣等感を覚えたりなんかしていない「自信」が。


 当該女性は、アナウンサーの言っていることを聞いて、劣等感を覚えた。それが「現実」だった。ところが、当該女性には、そんな劣等感を覚えたりなんかしていない「自信」があった。


 そのように「現実」と「自信」が背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのいずれかであるように思われる。

  • ①その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう、修正する(現実にもとづく自信修正)。
  • ②その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう、修正する(自信にもとづく現実修正)。


 で、その局面で、当該女性は、あのAさんとおなじく、後者②の「自分にもとづく現実修正」の手をとった。劣等感を覚えたりなんかしていないという「自信」に合うよう、「現実」を修正し、劣等感を覚えているのではなく、「テレビでアナウンサーがわたしの欠点やらなにやらを話している、噂話をしている」と解することになった  


 いま、(精神)医学に、理解不可能と決めつけられ、「妄想」扱いを受けてきた、当該女性の「テレビでアナウンサーがわたしの噂話をしている」という発想を理解しようとして、みなさんがどのように類推するかを見てきました。


 その類推は当たっているでしょうか。


 俺にはわかりません。


 おそらくみなさんにも。


 でも、当たらずとも遠からじ、という気がするのは俺だけでしょうか。当該女性のそうした発想が、どうやら(精神)医学の説明に反し、理解不可能なんかでは全く無さそうだという手応えを、みなさん、得ることができたのではないでしょうか。






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