*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.35
いまこう推測しましたよ。
ひととすれ違うさい、Nさんは、「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりした(現実)。ところがそのNさんには、自分が「肩身の狭さ」を感じたり、「劣等感」を覚えたりしているはずはないという「自信」があった。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。
で、Nさんはその場面でも後者Bの手をとった。自分が「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解釈した。
すれ違いさまにひとが、「社会にお前の居場所なんか無い(うざいぞ)」とか「お前なんかダメだ(この、バカ)」とか言ってくるのが聞こえる、って。
いまの推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①ひととすれ違うさい、「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりする(現実)。
- ②自分がそうしたものを感じたり、覚えたりしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「すれ違いざま、ひとが『社会にお前の居場所なんか無い(うざいぞ)』とか『お前なんかダメだ(この、バカ)』とか言ってくるのが聞こえる」(現実修正解釈)。
要するに、ひととすれ違う際、自分が「肩身の狭さ」を感じたり、「劣等感」を覚えたりしていることに、Nさん自身、気づいていなかったのではないか、ということですよ。
ここでもまた、Nさんは、自分のことがうまく理解できていなかったのではないか、ということです。
2021年8月14日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/8)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
- part.6(短編NO.38)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。