*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.34
いま、こう推測しましたよ。今後のためにも振り返っておきますね。
Nさんは、目のまえに問題集を開けながらも、つい女性のことを考えてしまっていた(現実)。ところがそのNさんには、自分が女性のことを考えているはずはないという「自信」があった。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。
では、もしその場面でNさんが、前者Aの「自信のほうを、現実に合うよう訂正する」手をとっていたらどうなっていたか、ちょっとここで考えてみましょうか。
もしとっていたら、Nさんはたとえばこんなふうに「自信」を改めていたかもしれませんね。
「勉強しなくちゃならないのに、ボクはつい女性のことを考えてしまっているな! くそ、しっかりしろよ、ボク!」って。
でも、その場面でNさんが実際にとったのは、後者Bの「現実のほうを、自信に合うよう修正する」手だった。自分が女性のことを考えているはずはないとするその自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。
女性の顔のようなものが勝手に目のまえに浮かび上がってくる。
いまの推測をしつこいようですけど、箇条書きにしてまとめてみます。
- ①目のまえに問題集を開けながらも、つい女性のことを考えてしまう(現実)。
- ②自分が女性のことを考えているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「女性の顔のようなものが勝手に目のまえに浮かび上がってくる」(現実修正解釈)
これを(精神)医学は、さっきの引用文中にありましたように、「女性の顔のようなものが見えるという幻視の症状」であると診断し、「理解不可能」なものと説明するわけですけど、ほんとうのところは、いま見ましたとおり、なんてことはない、思春期にはよくある、ただの甘酸っぱい一コマにすぎないのではないでしょうか。性的関心が芽生えてきて、頭のなかが女性のことでいっぱいになり、勉強に集中できなくなるといった、ごくごく「理解可能」なことにすぎないのではないでしょうか。
ただNさん自身、自分がそこまで女性に夢中になっているということに気づいていないだけで。自分自身のことがうまく理解できていないというだけで、ね?
2021年8月13日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/8)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.2)。
- part.1(短編NO.33)
- Part.3(短編NO.35)
- Part.4(短編NO.36)
- Part.5(短編NO.37)
- Part.6(短編NO.38)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。