*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38
◆診断という名の差別で患者を傷つける
このように、ほんとうは「理解可能」で、正常であるNさんのことを、(精神)医学は、不当にも「理解不可能」と決めつけ、異常であるということにして、差別してきました。人生に挫折しそうになっているなか、精神科で権威者からそうした差別を受け、Nさんは果してどう感じたことでしょう?
前のほうでも一度言いましたように、余計、追い詰められることになったのではないでないかと、みなさん思いません?
そうした差別を医学という名の権威から受けていたNさんは、人間の尊厳を踏みにじられたような屈辱を覚えていたのではないかと俺は想像します。実際、浪人2年目に入院することになったふたつ目の精神科での一場面が先ほど、こう書かれていました。
それでも急に看護スタッフに対して、些細なきっかけから、「何か不安で死にたくなっちゃった」と訴えることもあれば、「先生、クスリをくれた後、ぼくのことを笑っていたでしょう」「ハエが頭の中で飛び回っている」などと被害妄想や体感幻覚を思わせる発言が続いていた(岩波明『精神疾患』角川ソフィア文庫、2018年、p.129、ただしゴシック化は引用者による)。
読みました? Nさんが精神科医に笑われているように感じていた旨、記してありましたよね? ほんとうは「理解可能」で、正常であるにもかかわらず、不当にも「理解不可能」と決めつけられ、異常扱いされていたら、そりゃあ大抵誰だって、そんなふうに、バカにされていると感じるものなのではありませんか?
そのようにバカにされていると感じるのはほんとうに、被害「妄想」に当たるでしょうか?
いや、決して当たりませんね? 実際Nさんは、(精神)医学に差別されるという被害をこうむっていますよね? そのことをこのたび、しっかりみなさんと実地にひとつひとつ確認してきましたね?
次回は5月3日(月)21:00頃にお目にかかります。2ヶ月ほど、お休みを頂きますね。
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/9)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りしました(今回はpart.6)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。