*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.35
◆いじめが深刻になってきて勉強どころではない
引用文の冒頭部分によると、高校卒業間近には、卒業できないかもしれないと心配されるほど、学校の成績は悪くなっていたということでしたね。あまり勉強しなかったのでしょうね。
でも、俺、こう思います。勉強しないといけないとNさん自身もよくわかっていた、いや、Nさんが一番そのことをわかっていたのではないか、って。だけど、勉強しようと頑張っても、他事が気になって、できなかったんだろう、って。
ほら、こんなことを言うひと、みなさんの周りにもいませんでした? 試験勉強をしたり、レポートを書いたりしないといけないときに限って、なぜか部屋が散らかっているのが気になり、掃除をはじめてしまうんだ、って。
そんなふうに、勉強しようとしはじめた途端、他事が強く気になってくることって、ありますよね。Nさんにも、そうしたことが起こっていたのではないでしょうか。
現にさっきの引用文中に、「いじめが深刻になってきて、勉強どころではなくなっていた」とNさんが言っていた旨、記してありましたよね。「だが、いじめが実際にあったわけではなく、やはり被害妄想によるものだった。幻聴も散発しており、『うぜえ』とか、『死んじまえ』などという同級生の声が聞こえていた」ということでしたね。
勉強しようとして机に向かっていると、同級生たちはボクのことを内心「うぜえ」とか「死んじまえ」とかと思っているのではないかと気になってきて、勉強がそっちのけになってしまったのかもしれませんね。
でも、Nさんからすると、勉強しようとしているそのときに、自分がそんなことを気にしたりするはずはなかった。
いや、いっそ、Nさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い改めてみることにしましょうか。そのときNさんには、自分が同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。
で、その自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。
問題集を開いて勉強しようとしていると、「うぜえ」とか「死んじまえ」とかいう同級生たちの声が聞こえてきて、勉強どころではなくなる、って。
2021年8月14日に文章を一部修正しました。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
- part.6(短編NO.38)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。