*認知症の人間の言動は理解不可能か・第8回
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先に進もう。
認知症と呼ばれるもののなかから、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、ピック病、の4つをとり挙げ、ひとつずつ点検していくことにした。現在はその一番初めにある、アルツハイマー型認知症を見ているところである。
医学はひとを認知症や軽度認知障害などと診断して「異常」ということにし、そのひとたちの言動を「理解不可能」と決めつけてきたけれども、この世に「理解され得ない」人間など存在しないということを俺たちは最初に理論的に証明した*。そしていま、その具体的な症状一つひとつがほんとうにその理論通り「理解可能」か実地に検証しているわけである。
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*まず「異常な人間が存在し得ないこと」を証明し、次にそれを利用して「理解不可能な人間が存在し得ないこと」を確認した。
①異常な人間が存在し得ないことを証明
②理解不可能な人間が存在し得ないことを①を利用して確認
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先に、長谷川和夫著『よくわかる認知症の教科書』(朝日新書、2013年)のなかの記述をもとに、アルツハイマー型認知症の症例なるものの簡単な一覧を作っておいた。それを再度次に示す。ここまでの間に、そのなかのはじめの三つ、すなわちAの①から③までのどれもが「理解可能」であるらしいことの確かな手応えを得ている。
今回はAの④「物盗られ妄想をするようになる」について考察する。
A.初期段階
①物忘れが次第に激しくなる(記憶機能の低下)
数分前に食事したことを忘れたり、曜日や日にちがわからなくなって、周囲に何回もおなじことを聞いたりするようになる。
②段取りを立てて物事を行うことができなくなる(実行機能障害、手順の障害)
言葉のやりとりが難しくなったり(失語、「あれ」「これ」といった代名詞が多くなって意味が通じにくくなる)、料理などができなくなったりする。
③不安、不穏(落ち着きのなさ)、うつ状態
④物盗られ妄想をするようになる
財布などの貴重品をどこかに置き忘れて、それを身近にいる人(介護している人など)の責任にし、「盗まれた」と主張する。
⑤作話
事実とは異なることを話のなかに織り込む。
B.中等度①見当識が失われる(失見当)
季節や時間の意識がなくなったり、自分のいる場所がわからなくなって道に迷ったり、トイレの場所がわからなくなって失禁したりする。
②失行
ボールペンなどこれまで当たりまえに使えていた道具が使えなくなったり、着替えができなくなる(着衣失行)
C.高度認知症①対象を認識できなくなる(失認)
いっしょに暮らしている家族の顔がわからなくなる(相貌失認)。また、大小便の失禁、摂食障害・嚥下障害(食べたり、飲み込んだりが困難)が起こる。
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