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科学には、人間を理解することを妨げる理論的欠陥がある

アルツハイマー型認知症⑤:事実とは異なることを話のなかに織り込む(作話の)理由(1/5)

認知症の人間の言動は理解不可能か・第9回

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 今回は、アルツハイマー認知症の症状のひとつに数えられる「作話」を見る。


 医学はひとを認知症や軽度認知障害などと診断し、異常と見なすことによって、そのひとたちの言動に「理解不可能」の烙印を押してきた。そこで、俺たちはそれら言動がほんとうに、俺たちの示した理論どおり「理解可能」であるか、アルツハイマー病、血管性認知症レビー小体型認知症、ピック病、の順に検証することにした。今回はアルツハイマー認知症の作話をとり挙げる。


 作話は長谷川和夫著『よくわかる認知症の教科書』(朝日新書、2013年)ではこう説明されている。

作話は、事実とは異なることを話のなかに織り込むことです(同書34頁)。


 たとえばこういった感じのものだろう。佐藤眞一著『認知症「不可解な行動には理由がある」』(ソフトバンク新書、2012年)ではこんな例が、氏の見聞してきた複数の件を元に造形されている。「嘘の話」と書かれているのが作話に当たる。

 Hさん(85歳、女性)は、若い頃は看護婦をしていましたが、長男が生まれたときに仕事を辞め、専業主婦として3人の息子を育てました。息子たちが独立してからは夫婦二人暮らしでしたが、10年前に長男夫婦とともに2世帯住宅を建てて同居。2年前に夫をがんで亡くし、現在は長男(59歳、会社員)と、その妻(57歳、専業主婦)の3人で暮らしています。


 夫を亡くした直後から、Hさんは「死んでしまいたい」と言ってふさぎ込んだり、食事を拒否したりするようになりました。しばらくしてそれが治まると、今度は取り乱して意味不明なことを言ったり、世話をしている長男の妻をなじったりしだしました。しだいに物忘れもひどくなり、時間や場所の見当識も現れて、ついに1年ほど前から、嘘の話をやたらしたり、妄想が現れたり、金銭に異常にこだわったりするようになってきました。


 たとえば、「おじいさんが待っているから、お金を持って駆けつけないといけない」「兄の会社が人手不足だから、手伝いに行かないといけない」「市長さんに呼ばれているから、市役所に行かないといけない」などと、嘘の話をしては家を飛び出そうとします。そのたびに、「おじいさんは亡くなったでしょ」とか、「そんなこと、あるわけないでしょ」と長男の妻が正しますが、「嘘をつくな!」「何も知らないくせに!」と、聞く耳を待ちません。時には制止を振り切って家から飛び出し、迷子になってしまうこともあります。


 また、「嫁が私の預金通帳を持って逃げてしまった」「嫁がこっそり私の郵便保険を下ろした」などと妄想を抱いて長男に訴えたりもします。長男も「何言ってんだよ」「そんなことするわけないだろ」と否定しますが、否定されるとよけい言いつのり、意味不明の叫び声を発したりします。


 さらに、「今度駅前に建つビルは私がお金を出したんだ」「市立病院を手伝ってやったら、すごく助かったと言ってお礼をたくさんくれた」「積立貯金が何本もあって、もうすぐ満期になる」などと、ありもしないお金のことを自慢したりするのです。そして、「私のお金はどこにある!」「積立貯金はどこへやった!」などと詰問口調で迫るので、長男の妻もカッとして「何バカなこと言っているの!」と、怒鳴ってしまうことがあります(同書164-166頁)。


 いまからこの作話を見ていくにあたって最初に、今回までの考察をふり返ってみることにしよう。






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