*進化論はこの世をたった1色でぬりつぶすんだね第18回
また、これとは別のご指摘もあるかもしれません。
たとえば、俺たちの挙げた、利己的行為、利他的行為、「利益の与えあい」という三つのほかにも、利益の得かたには、単独で利益を得るとかいろいろあるのではないかという声も聞こえてきそうな気がします。
大きな川のほとりでシマウマが一頭、水を飲んでいるとします。一見したところ、このシマウマは「単独で利益を得ている」ように見えます。そのシマウマが水を飲むという利益を得ても、他生物に不利益を与えているようには思われません。つまりそのように水を飲むのは利己的行為には見えません。けれども進化論の見方では、「利益を得るとはかならず他に不利益を与えること」です。このシマウマが、飲み尽くせない量の水をたたえている川からほんの少し水を飲むだけでも、他に不利益を与えることになります(水のなかに生物がいて、飲めばその生物を殺すことになるというのはいまの場合、無いことにしておいてください)。「単独で利益を得る」場合がこの世に存在するのを許しません。
いったい進化論はなぜこのように、利益を得るとは「かならず」他に不利益を与えることだとするのでしょうか。どうして「単独で利益を得る」場合の存在をみとめないのでしょうか。いやそれとも、「単独で利益を得る」場合が存在するはずがないのは明白なことなのでしょうか。
が、そう疑問を呈しはしますものの、寡聞、不勉強、思考力ゼロと三拍子がそろっているクソ三冠王である俺はお恥ずかしながら、進化論が「単独で利益を得る」という行為について何と言っているのか存じあげません。あるいは、「単独で利益を得る」場合を存在しないことにする理由について進化論は何も言っていないのかもれしません。しかし、情けないほど何にも知らない愚かなクソなりに、クソ乏しい想像力を働かせ、進化論が「単独で利益を得る」場合を想定しない理由を、俺はいちおうつぎのように推測しています。
すなわち、他生物を食べるときには、利益を得ることが他に不利益を与えることになるのは当然ですが(食べられるものは不利益をこうむります)、シマウマ一頭が川の水を飲むとか、俺が水辺で夕涼みを満喫するといった、他生物の殺生をともなわない利益享受でも、進化論では、他に不利益を与えることとされるのは、ひょっとして、この世界のどの地域をとっても、そこにある利益は、そこに生息するすべての生物が必要とする量を下回ると進化論が考えているということなのではないでしょうか。
あたり一帯に生息する生物すべてが必要とする量を上回るだけの水がその地域にあるのであれば、大きな川でシマウマ一頭が水を飲んでも、他の生物が生きていくのに必要な水は残ります。したがって、シマウマがそのように水を飲むのは、「単独で利益を得る」ことだと言えます。自らの利益を得ることで他に不利益を与える利己的行為には該当しません。
ところが、じっさいに存在する水の量が、あたり一帯に生息する生物すべてが必要とする量を下回るのであれば、大きな川の水をシマウマ一頭が少し飲んだだけでも、その分、生きるのに必要な水分を確保できなくなる生物が出てくることになります。よってシマウマが川の水を飲む行為は、自らの利益を得、他に不利益を与える利己的行為だということになります。
言ってみれば、進化論では、利益を得ることがこのように、イス取りゲームをすることのように考えられるのではないでしょうか。イスは、すべての参加者の分は用意されていません。誰かがイスを得ると、誰かがイスの獲得からあぶれます。したがって、利益を得ることはかならず他に不利益を与えること、すなわち利己的行為になります。
ところがもし参加者の数以上のイスが用意されていたら、どうでしょう。誰かひとりがイスを自分のものにしても、誰も不利益をこうむりません。「単独で利益を得る」ことは可能です。
他生物を食べるときには、「単独で利益を得る」場合などなく、利益を得るとはかならず他に不利益を与えることです。しかし、それ以外のすべての場合でも、「単独で利益を得る」ことは一切不可能であり、利益を得るかぎりかならず他に不利益を与えることになると進化論ではしているように思われます。これは、どんな利益も、あたり一帯に生息する生物すべてが必要とする量を下回り、そのため、利益を求めることがかならずイス取りゲームをすることになると進化論が考えているということなのではないでしょうか*1。
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*1:2018年8月9日付記。利己的行為という言葉にかかっていた〈〉と、利他的行為という言葉にかかっていた《》をとり外しました。