(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

脳科学の本を開いて現代科学流の快さ苦しさの定義を確認する

*科学するほど人間理解から遠ざかる第29回 


 快さを感じているというのは「今どうしようとするか、かなりはっきりしている」ということであり、かたや苦しさを感じているというのは「今どうしようとするか、あまりはっきりしていない」ということであるといったふうに快さと苦しさを理解することは、事のはじめに「絵の存在否定」と「存在の客観化」というふたつの不適切な操作をなす西洋学問にはできないとのことでした。


 では快さや苦しさを西洋学問ではどういったものと誤解するのか


 いろんな誤解の仕方があるのでしょうけれども、ここではそのうちのふたつを見ることにし、いまそのふたつ目を見ています


 そのふたつ目の誤解の仕方  理化学研究所脳科学総合研究センター編『脳科学の教科書(こころ編)』岩波ジュニア新書、2013年、で説かれているもののことですが  では、快さ快情動、脳が「身体機械」に、好物への接近行動をとらせるまえにさせるウォーミングアップ苦しさ不快情動、脳が「身体機械」に、敵からの逃避行動をとらせるまえにさせるウォーミングアップとするということでした。

脳科学の教科書 こころ編 (岩波ジュニア新書)

脳科学の教科書 こころ編 (岩波ジュニア新書)

 


 実際に同書をひらけて、そのように説明されているのをつぎの順で確認します。

情動(何度も申しますように、科学は感情を情動とよびます)行動まえのウォーミングアップと説明されていること

行動が好物への接近行動と敵からの逃避行動に二分されていること

3.快さ(快情動)が、好物への接近行動まえのウォーミングアップ、苦しさ(不快情動)が、敵からの逃避行動まえのウォーミングアップとそれぞれ説明されていること。

4.それら、好物への接近行動まえのウォーミングアップと、敵からの逃避行動まえのウォーミングアップとがそれぞれ、脳のなかの特定の一点によって引き起こされるものと説明されていること*1

5.「脳によって身体機械がどのようなウォーミングアップをさせられているかを知らせる情報」が、電気信号のかたちで「身体機械」各所から発したあと、神経をへて脳に行き、そこで「身体の感覚(部分)」に変換され、それが好物への接近行動まえのウォーミングアップについての情報なら、快さの「感じ」という分類のなかに入れられるいっぽう、敵からの逃避行動まえのウォーミングアップについての情報なら、苦しさの「感じ」という分類のなかに入れられると説明されていること*2


 前記1「情動が行動まえのウォーミングアップと説明されている」ところをまず確認します。ゴシック体の部分にご注目ください。

 動物が、環境の中でなんらかの反応をすることが必要な状況に直面すると、その状況に対して適切な行動をスムーズにとれるように、からだの中ではさまざまな生理的な反応が自然に引きおこされてからだ全体の状態がその反応に向けて最適な状態に準備されます。たとえば、目の前においしい餌を見つければ、舌なめずりをしながらむしゃぶりつこうとするでしょうし、こわい敵にとつぜん出会えば、毛を逆立てて攻撃しようとするか、身がまえて逃げだそうとするでしょう。


 これらの、主に自律神経系のはたらきなどによる生理的な反応を、広く一般的に「情動反応といいます


(略)そして、そのときどきに適したさまざまな行動を引きおこすためのからだの内部状態のかまえ」あるいは「準備のしかた」のパターンが、一連の情動反応としてさまざまに分類されているのです*3


 脳科学者が、情動(反応)を行動まえのウォーミングアップと説明しているのをいまみなさんにご確認いただきました。つぎは前記2「行動が、好物への接近行動と、敵からの逃避行動に二分されている」のをごらんいただきます。今度もゴシック体の部分にご注目ください。

 しかし、情動反応の本質が、動物がその場での最適な行動をおこすためにからだの状態を準備することにあるならば、このような現象は、たとえばアメーバなどのごく下等な生物からでも観察することができるはずです。


(略)ここでもういちど、ある環境にのぞんだときの生物の基本的な行動・態度のパターンについて、よく考えなおしてみましょう。ある生物が外界のある状況におかれたときとる行動は、(そこにとどまって、ぼーっとしたまま何もしない、というような特別な場合以外は)基本的には、そこから「逃げる」「避ける」「退ける」といった忌避行動をとるか、「近づく」「認める」「とりこむ」といった接近行動をとるかに大きく分けられると思います〔引用者注:いまみなさんは前記2をご確認になりました〕。つまり、敵がくれば逃げるでしょうし、食べものがあれば食べにいくでしょう。そして、この状況に直面したとき、これらの行動がスムーズにとれるように、からだの状態が準備するわけです*4


 つぎに、前記3「快さ(快情動)が好物への接近行動まえのウォーミングアップ、苦しさ(不快情動)が敵からの逃避行動まえのウォーミングアップとそれぞれ説明されている」のを確認します。


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本年も大変お世話になりました。
ありがとうございます。
次回は、来年1月6日(日)21:00にお目にかかります。
みなさん、どうぞよいお年をお迎えください。


このシリーズ(全32回)の記事一覧はこちら。

 

*1:2019年1月7日に、この項目4を追加しました。

*2:2019年1月7日に表現を一部修正しました。

*3:同書pp.128-131、ゴシックは引用者による。

*4:同署pp.131-133、ゴシックは引用者による。