(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

科学がやっているように身体を機械と見なすと、こんなふうに快さや苦しさの意味がまったくわからなくなって、もう頭が爆発しちゃいそうだ(3/4)【医学がしばしばしばみなさんに理不尽な損害を与えてきた理由part.8】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」の短編NO.54


◆性被害者を「なのになぜ逃げなかった!」と叱りつける極悪非道理論

 みなさん、もし可能であれば、申し訳ないですけど、暴力を振るわれそうになっているものと仮定してみてくれませんか。


 みなさんは恐怖を感じています。


 その恐怖はいまの科学の説によると、みなさんの脳が、みなさんの心のなかに作り出したサインであることになります。


 どんなサインか?


「身体機械」に起こっている不快情動がどんなふうであるかを(心に)知らせるサインですね。もっと砕いていうと、敵(この場合は暴漢)からの逃避行動まえに身体に起こっているウォーミングアップがいかようかを(心に)知らせるサイン(前記B)、ですね?


 でも、恐怖を覚えているとき、ほんとうに身体はそんな敵からの逃避行動まえのウォーミングアップをしていると言えそうですか? そのおかげで、敵からの逃避行動がそのあとスムースにとれる、そんなウォーミングアップを身体はしている、って?


 恐怖っていったい何でしょう? ひとに暴力を振るわれそうになって、恐怖を覚えるというのは、言ってみれば、すくみ上がるということですね? 身体が固まるということですね?


 恐怖を覚えると、逆にうまく動けなくなるのではありませんか。感じている恐怖が強ければ強いほど、身体はうまく動かないのではありませんか。


 そういう点で、恐怖は緊張と似ているのではないでしょうか。緊張すると、身体はうまく動かなくなりますね?


 にもかかわらず、恐怖を感じているということを、敵からの逃避行動まえのウォーミングアップが身体に起こっているということだと解すると、つまり、そのあと逃避行動がスムースにとれるようになるそんなウォーミングアップが起こっているということだと考えると、話が大きく違ってきませんか。


 むしろ、話がまったく正反対になってきませんか。こんなふうに。


「恐怖を感じていればいるほど、恐怖が強ければ強いほど、敵からの逃避行動まえのウォーミングアップがしっかりとれていることになる。だから、そのあと敵からの逃避行動もよりスムースにとれることになる!」


 そしてたとえば、こういうことになりません?


 みなさんがレイプされそうになって、恐怖を覚えたとしますよ。みなさんは固まるわけですね。逃げようにも、身体が動かなくなる。足がうまく動かない。声も出てこない。まるで意思というものが自分のうちからパッと一気に消えて無くなってしまったかのように。でも、いま見ている科学の説を信奉している人間は、たとえばこう責めてきます。


「あなたはそのとき恐怖を感じていた。それは、あなたの身体に敵からの逃避行動まえのウォーミングアップがしっかりと起こっていたことを意味する! あなたには逃げる準備がちゃんとできていたんだ! なのに、なぜあなたは逃げなかった!」


 とんでもない言い掛かりだと思いませんか? 恐怖を感じているときの自分のことをすこしでもふり返れば、こんな説をとれるはずがないことはすぐ合点がいくではありませんか?


 こんな見方で、みなさんがふだん感じている快さや苦しさをまともに説明することは不可能です。


 では、遅くなりましたが、最後に、快さと苦しさについてのこんな珍妙な説をとると、争点を「苦しくないか、苦しいか」から「正常か、異常か」にすり替えることになるという例のことを、いまから確認していきます。






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