*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.11
◆監視されている(ⅱ)
男性は会社の外にいても、上司のことがつぎのように気になったのかもしれない、とも俺は考えてみました。いまからコレコレこうしようと思うが、そのとおりにすれば、上司に「なにやってんだ」とか「バカそうじゃねえよ」とかと怒られるんじゃないか、といったふうに。
ところが、男性からすると、自分が会社の外のそんなところで、上司のことを気にしたりするはずはなかった。
いや、いっそ、男性のその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのとき男性には自信があったんだ、って。自分が会社の外でまで上司のことを気にしているはずはない、という自信が、って。
で、その自信に合うよう、男性は現実をこう解した。
電車に乗ったり、通りを歩いたりしていても、上司が「なにやってんだ」とか「バカそうじゃねえよ」といった声を送ってくる。まるで監視されているみたいだ、って。
これが俺の想像する、幻聴に当たる場合、です。こういうことでした。
男性は会社の外にいても、上司に「なにやってんだ」とか「バカそうじゃねえよ」とかと怒られるのではないかと気になる(現実)。ところがその男性には、自分が会社の外でまで上司のことを気にしているはずはないという「自信」がある。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。
で、男性はその場面で、後者Bの「現実のほうを修正する」手をとった。つまり、自分が会社の外でまで上司のことを気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解した。
会社の外にいても、上司が「なにやってんだ」とか「バカそうじゃねえよ」といった声を送ってくる。まるで監視されているみたいだ。
以上の推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①会社の外にいても、上司に「なにやってんだ」とか「バカそうじゃねえよ」とかと怒られるのではないかと気になる(現実)。
- ②会社の外でまで上司のことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解する。「会社の外にいても、上司が『なにやってんだ』とか『バカそうじゃねえよ』といった声を送ってくる。まるで監視されているみたいだ」(現実修正解釈)
さあ、いま、見る予定にしていた3つの体験のうち、まずアの「監視されている」を見終わりました。幻聴に当たらない場合と、当たる場合とをひとつずつ想像しましたね。この要領でつづきを見ていきますよ。
2021年8月17,18,19日に、文章と内容を、修正しました。
*今回の最初の記事(1/8)はこちら。
*前回の短編(短編NO.10)はこちら。
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。