(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「自民党有名某政治家の分身が笑うのが聞こえた」を理解する(3/5)【統合失調症理解#14-vol.4】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.24


 でも、なぜこの場面でいきなり、「田中角栄竹下登の分身」といった発想が小林さんのもとに浮かんできたのでしょう?


 みなさん、ここでちょっと思い出してみてくれませんか。その前日、小林さんは、同僚が会社にもってきた新聞の記事を読んで、本気でこう思ったとのことでしたよね。アニメーションによる体制変革を志している小林さんのことを、国が、その妨害者たちの手から守ろうと動き出したんだ、って。

 

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その場面は下の記事で見ました。

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 けどそんなふうに信じ込むと、こんな疑念を抱くことになると思いません? 時の内閣はボクが体制変革を志していることを知っているのかもしれないな、って。ボクはすでに時の内閣の監視下に置かれているのかもしれない、って。


 その推理どおり、早稲田大学を訪れた小林さんはこのときもう、時の内閣から監視されていると感じ考えるようになっていたのかもしれませんね。であればこそ、急にここで、「田中角栄竹下登の分身」という発想が閃いたのかもしれませんね(あるいはそんなことではなく、ただその男子大学生ふたりがそれぞれ、田中角栄竹下登に似ていたとかいうだけのことだったのかもしれませんけど)。


◆振り返り

 いまこう推測しました。


 小林さんは学生3人組にどんなアニメが好きか質問した。すると、ひとりの男子学生が「『巨人の星』とか」と答え、小林さんはついその答えに内心笑ってしまった(現実)。ところがそのとき小林さんには、自分が好感のもてるその男子大学生のことを笑っているはずはないという「自信」があった。


 このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 では、もしそこで小林さんが前者Aの「自信のほうを訂正する」手をとっていたら、事はどうなっていたか、まず想像してみましょうか。もしとっていたら、小林さんは自己嫌悪しながらこんなふうに反省することになっていたかもしれませんね?


「男子学生のことをつい内心、笑ってしまった。自分がそんな申し訳ないことをするなんて、思ってもみなかった。愕然とする。今後は気をつけよう」


 でも、この場面でも小林さんがとったのは、後者Bの「現実のほうを修正する」手だった。すなわち、自分が好感のもてるその男子大学生のことを笑っているはずはないとするその自信に合うよう、小林さんは現実をこう解した。


 誰かが笑っている。この男子学生ふたりは実は田中角栄竹下登の分身で、その本体が笑ったんだな、って。


 ここまでずっとしてきたように、いまの推測も箇条書きにしてまとめてみます。

  • ①「好きなアニメは」という問いに男子学生が「『巨人の星』とか」と答えたのにたいして、内心笑ってしまった(現実)。
  • ②その男子大学生のことを笑っているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「誰かが笑っている。男子学生ふたりは実は田中角栄竹下登の分身で、その本体が笑ったんだな」(現実を自分に都合良く解釈する





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2021年9月25,26,27日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/5)はこちら。


*前回の短編(短編NO.23)はこちら。


*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。