*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.11
◆監視されている(ⅰ)
では、アからはじめます。幻聴に当たらない場合と、当たる場合とを順にひとつずつ想像していきますよ。
男性は、最初に技術者として入った会社を辞め、転職したとのことでしたね。そして、あらたに入った会社で、営業にちかい職をまかされた。しかし「厳しいノルマが課せられ、成績が上がらないと上司から容赦のない叱責が飛んできた」。男性は「その頃から、次第に眠れなくなると同時に、電車に乗ったり、通りを歩いていても、いつも監視されているような感じに襲われ」るようになった、とのことでしたね。
男性はいつしか、そんな厳しい上司のことを恐れるあまり、電車に乗ったり、通りを歩いたりしていても、ビクビクするようになったのかもしれませんね。上司に後をつけられ、一挙手一投足を容赦のない目で点検されているのではないか、って。いまにも首根っこをつかまれ、「なにやってんだ、おまえ!」と怒られるのではないか、って。
まあ、敢えて言ってみれば、街中で不倫を楽しんでいる最中の男性が、配偶者もしくは探偵に後をつけられ、始終見られているのではないかとか、現場をおさえられるのではないかとかと気にするのとおなじですよ。みなさんも学生のころ、学校や塾をズル休みして街中に繰り出したとき、親に後をつけられているのではないかとビクビクしたこと、ありませんか。まあ、それとおなじです。
いまこう言いました。男性は、厳しい上司のことを恐れるあまり、電車に乗ったり、通りを歩いたりしていても、上司に後をつけられ、一挙手一投足を容赦のない目で点検されているのではないかとビクビクするようになったのかもしれない、って。それで男性は、「いつも監視されているような感じ」がすると言ったのかもしれませんね。
いま初めに、幻聴に当たらない場合を想像してみましたよ。つぎは、幻聴に当たる場合を考えてみますね。
2021年8月17,18,19日に文章を一部修正しました。
*前回の短編(短編NO.10)はこちら。
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。