*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.37
いまこう推測しましたよ。
2浪しているのに、予備校にも行かず、勉強もしないでいる自分を、世間はバカだと嘲笑っているのではないか、ちゃんとしろと非難しているのではないか、としきりと気になる(現実)。だけどそのNさんには、自分が世間の目を気にしているはずはないという「自信」がある。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。
で、Nさんはその場面でも後者Bの手をとった。自分が世間の目を気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解した。
ボクを、バカだと嘲笑う声(からかうような声)や、ちゃんとしろと非難する声(嫌がらせの声)が絶えず聞こえてくる、って。
箇条書きにするとこうなります。
- ①ボクのことを、世間はバカだと嘲笑っているのではないか、ちゃんとしろと非難しているのではないか、としきりと気になる(現実)。
- ②世間の目を気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「ボクをバカだと嘲笑う声(からかうような声)や、ちゃんとしろと非難する声(嫌がらせの声)が絶えず聞こえてくる」(現実修正解釈)
要するに、Nさんは、自分が世間の目を気にしていることに気づいていなかったのではないか、ということですよ。
自分のことをうまく理解できていなかったのではないか、ということです。
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/6)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.5)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.6(短編NO.38)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。