*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.28
小林さんはさらにこうも書いています。
「木梨?」
と聞くと、彼は、
「あしたのジョー」
と答えた。これはとんねるずが『お坊チャマにはわかるまい!』の最終回で使ったギャグで、「ジョー」という音を僕の声帯ではなく、お腹のあたりを使って鳴らしたのがいかにも木梨らしくて笑えた(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、p.130)。
小林さんが、小林さんお気に入りのとんねるず木梨憲武のことを考えていたとき、手足が震えたり、背中がぞくぞくしたりしてきたのかもしれませんね。そこで、ちょうどいま見た要領で、それをテレパシーによる交信と信じ、「木梨?」と訊いた。するとたまたま小林さんの腹がグゥーっと鳴った。
で、ひとびととテレパシーで交信できている最中だと信じ込んでいた小林さんは、ふとこう閃いた。
これも、テレパシーによる交信で、木梨からの返事なのではないか、って。
そして、そのお腹のグゥーっと鳴る音が、かつてとんねるずが使った「あしたのジョー」というギャグの「ジョー」の部分に似ている気がした小林さんは、とっさにこう考えた。
ひょっとして木梨はいま、「あしたのジョー」の「ジョー」の部分を、ボクのお腹を使って鳴らすという形で、ボクに返事をしたのではないか、って。
たとえて言ってみれば、こういうことですよ。
おなじひとから何度も立てつづけに、間違い電話がかかってきたとしますね*1? みなさんはそのひとの電話をいま切ったばかりである。すると、すぐにまた電話が鳴った。
どうですか、みなさん。瞬時にこう閃きませんか。
また、おなじひとからかもしれない、って。
小林さんのいまの場合も、それとおなじようなことだったのではないかということですよ。手足が震えたり、背中がぞくぞくしたりするのを立てつづけに、ひとからの交信ととっていた小林さんは、お腹が鳴ったこのときも、その流れで、木梨からの交信だと瞬時に閃いたのではないかということですよ。
2021年10月17日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/7)はこちら。
*前回の短編(短編NO.27)はこちら。
*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。
*1:以下のたとえは、電話というとほぼ携帯電話を意味する現在では、あまりピンとこないものかもしれませんね?