*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.29
でも、ここは、こう解したほうがわかりやすいかもしれませんね。
◆別の解し方
政府に日中つけ回されたと思い込んでいた小林さんが帰宅後もずっと、ビクビクしているらしいことを、ここまで確認してきていますよね。ついさっき、深夜3時に目が覚めたときも、ドア向こうの階段を誰かが駆け降りていく足音を聞いて小林さんがとっさに、「追い回してきている奴らだ!」と閃いたらしいのも見ましたよね。そんな小林さんは新聞配達の物音を耳にしたこのときも、とっさにこう閃いたのかもしれませんね。
またボクを追い回している奴らだ! 妹に、ボクの扱いに関する指令でも届けに来たんじゃないのか? って。
でもそう閃いたとき、小林さんは同時にその閃きを疑ってみても良かった。実はそうではないんじゃないか、って。そうして、別の可能性に思いを致そうとしてみても良かった。
要するに、追い回してきている奴らが妹さんに指令を届け来たという可能性と、それを否定する別の可能性とを、小林さんは同時に感じていても良かった。
だけど小林さんには、その物音を聞いた自分がとっさに誤った内容のことを閃くなんて、まったく思いも寄らなかったのではないでしょうか。
いや、いっそ、そのことも裏返しにして、語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのとき小林さんには、自分のそのとっさの閃きが誤っているはずはないという自信があったんだ、って。
いま、こう推測しましたよ。簡単に振り返ってみますね。
新聞配達の物音を聞いて、小林さんはとっさに、追い回してきている奴らが妹に指令を届けに来たんだと閃いた。
自分のそのとっさの閃きが誤っているはずはないという自信があった。
なら、小林さんは当然、そのとっさの閃きを全面的に正しいものと信じ込むことになりますね? ボクを追い回してきている奴らが妹に指令を届けに来たのにちがいないんだ、って。
いまの推測を箇条書きにすると、こうなります。
- ①新聞配達の物音を聞いてとっさに、ボクを追い回してきている奴らが妹に指令を届けに来たんだと閃く(とっさに一可能性を思いつく)。
- ②自分のその閃きが誤っているはずはないという自信がある(他の可能性を不当排除する)。
- ③そのとっさの閃きを全面的に正しいと信じ込む(勝手にひとつに決めつける/現実を自分に都合良く解釈する)。
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前回の短編(短編NO.28)はこちら。
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