(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「テレビで自民党大物政治家が僕のことで喜ぶ」「アナウンサーがニュースで僕のことを仄めかす」「夜中の誰かが階段を駆け降りていった音は、睡眠中に僕の脳波をはかっていた者の慌てて逃げていく足音だった」を理解する(2/6)【統合失調症理解#14-vol.7】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.27


◆同時に他の可能性にも思いをはせる

 だけど、どうですか。いま引き合いに出した、ちょっとした物音にもビクっと反応し、「殺し屋が来た!」と身構えたガンマンは、急いでホルダーから拳銃をとり出したあと、隠れている樽の陰で、どうしますか?


 そのとっさの「殺し屋が来た!」とする判断は実は誤りだったのではないかと疑ってもみるのではありませんか。要するに、さっきの物音は単に風で小屋が揺れて立ったものにすぎないのではないかとかと、他の可能性にも思いを巡らせてみるのではありませんか。


 そうして、殺し屋が来たという可能性と、来ていないという可能性の両方を同時に感じながら、息を詰めるのではありませんか。


 でも、ブラウン管まえにいた小林さんには他の可能性(宮沢氏が小林さんのこと以外で喜んでいる可能性)などあるはずがないと思われていたのではないでしょうか。


 ほら、小林さんはこう書いていましたよね。宮沢氏は「こんなに嬉しいことはありません」とニコニコ顔で言っていたが、自分には「当時そんなに明るいニュースが〔引用者補足:他に〕あったとは思え」なかった、って。つまり、小林さんからすると、その場面で宮沢氏が、小林さんのこと以外で喜んでいるはずはなかったわけですね?


 要するに、そのとき小林さんには、宮沢氏がボクのこと以外で喜んでいるはずはないという自信があったわけですね?


 いまこう推測しました。簡単に振り返ってみますよ。


 宮沢氏がテレビで「こんなに嬉しいことはない」と言っているのを聞き、とっさに、ボクのことを言っているんじゃないか(ボクのことを喜んでいるんじゃないか)と閃いた。


 そしてそのとき小林さんには、宮沢氏がボクのこと以外で喜んでいるはずはないという根拠のない自信があった。


 なら、その後、小林さんがどういう判断を下すことになるかは、もう明白ですね。


 小林さんは、宮沢氏はボクのことで喜んでいると決めつけることになりますね?


 いまの推測を箇条書きにしてまとめてみます。

  • ①いまにもテレビで自分のことが報じられるのではないかとビクビクしていた。そんなところで、自民党の大物政治家である宮沢氏が「ニコニコ顔でインタビューに応じ」、「『こんなに嬉しいことはありません』と言ってい」るのを聞き、とっさに、ボクのことを喜んでいるんじゃないかと閃く(とっさに一可能性を思いつく)。
  • ②宮沢氏がボクのこと以外で喜んでいるはずはないという自信がある(他の可能性を不当排除する)。
  • ③当初の閃きにしたがって、「宮沢氏はボクのことを喜んでいるにちがいない」と決めつける(勝手に一つに決めつける/現実を自分に都合良く解釈する)





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2020年9月22日、2021年10月5,7日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.26)はこちら。


*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。