(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「テレビで自民党大物政治家が僕のことで喜ぶ」「アナウンサーがニュースで僕のことを仄めかす」「夜中の誰かが階段を駆け降りていった音は、睡眠中に僕の脳波をはかっていた者の慌てて逃げていく足音だった」を理解する(1/6)【統合失調症理解#14-vol.7】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.27

あらすじ
 小林和彦さんの『ボクには世界がこう見えていた』(新潮文庫、2011年)という本をとり挙げさせてもらって、今回で7回目です(全9回)。

 小林さんが統合失調症を「突然発症した」とされる日の模様からはじめ、現在はその翌日を見ているところです。

 統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたその小林さんが、(精神)医学のそうした見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であることを、実地にひとつひとつ確認しています。

  • vol.1(下準備:メッセージを受けとる)
  • vol.2(朝刊からメッセージを受けとる)
  • vol.3駅名標示から意味、暗号を受けとる)
  • vol.4早稲田大学で学生3人組と会話する)
  • vol.5(謎がついに解ける)
  • vol.6(政府の手先から逃げる)

 

今回の目次
自民党宮沢氏「こんなに嬉しいことはありません」
・同時に他の可能性にも思いをはせる
・宮崎キャスター「一人が発狂しました」
・誰かがあわててドア向こうの階段を駆け降りていく
・正体を確かめに行ってはいけない


自民党宮沢氏「こんなに嬉しいことはありません」

 さあ、引用のつづきをもうしばらくのあいだ、見させてもらいますよ。


 小林さんが、統合失調症を「突然発症した」とされる日の翌日、7月25日(金)に、母校、早稲田大学を訪れ、CIAもくしは内閣調査部につけ回されていると誤解して逃げ惑うことになったところまでを見ましたよね。


 小林さんはその後、なんとか電車を乗り継いで帰宅します。

 テレビをつけると、『ニュースセンター9時』をやっていた。途中からだったので何のニュースかわからなったが、自民党の宮沢さんがニコニコ顔でインタビューに応じてこんなに嬉しいことはありませんと言っていた。当時そんなに明るいニュースがあったとは思えず、僕が現実の本当の姿に気づいたことがこの人はそんなに嬉しいのかと思った。


宮崎緑キャスターが
、「アミノ酸製剤を四人に投与したところ一人が発狂しましたという意味不明のニュースを報じたが、「発狂」という言葉を聞いて、これも僕に関わるニュースだな、と直感した(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2010年、p.123、ただしゴシック化は引用者による)。

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

  • 作者:小林 和彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 


 小林さんが帰宅してテレビをつけるとニュースをやっていて、「自民党の宮沢さんがニコニコ顔でインタビューに応じ」、「『こんなに嬉しいことはありません』と言っていた」とのことでしたね。で、それを聞いた小林さんは、「当時そんなに明るいニュースがあったとは思えず、僕が現実の本当の姿に気づいたことがこの人はそんなに嬉しいのかと思った」とのことでしたね。


 ひょっとすると、このとき小林さんは、いまにも自分のことが報じられるのではないかとビクビクしながらテレビを見ていたのかもしれませんね。だって、日中、早稲田大学で小林さんの身に起こったことは大事件ではありませんでしたか? 途中、「すれ違う人が皆、僕に殺意を持っているような気がして、『殺さないでください。殺さないでください』と会う人会う人に頼みながら歩いて行った」(同書p.117)というくらいでしたものね?


 そんなふうにビクビクしながらテレビを見ていた小林さんは、宮沢氏が「こんなに嬉しいことはありません」と言っているのを聞いてとっさに自分のことを言っているんじゃないかと閃いたのかもしれませんね。


 もしかすると、宮沢氏は「僕が現実の本当の姿に気づいたこと」を喜んでいるんじゃないか、って。


 言ってみれば、こういうことですよ。いまにも殺し屋に殺されるのではないかと怯えているひとが、ちょっとした物音にもビクッとして、「殺し屋が来たんじゃないかと身構えるように(そういうものなのではありません?)、いまにも自分のことが報じられるのではないかとビクビクしながらテレビを見ていた小林さんは、宮沢氏のその発言を聞き、とっさに、「自分のことを言っているんじゃないかと身を固くしたのではないか、ということですよ。


 このとき小林さんはまだかなり動転していたのではないかと俺、想像します(政府につけ回されているということであれば、誰だってそうなりません?)。





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2021年10月5,7日に文章を一部修正しました。


*このシリーズは全9回でお送りします(今回はvol.7)。

  • vol.1

  • vol.2

  • vol.3

  • vol.4

  • vol.5

  • vol.6(前回)

  • vol.8(次回)

  • vol.9


*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。