*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15
目次
・場面4:高校生幻聴
・場面5:テレビ・ラジオ幻聴
・場面6:仲間幻聴
・場面7:車幻聴
・医学がCさんを「理解不可能」と決めつけるやり方
・医学もCさんのように「現実修正解釈」をやってきた
◆場面4:高校生幻聴
「理解不可能」なひとなど、この世にただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。だけど(精神)医学は、一部のひとたちを不当にも「理解不可能」と決めつけ、差別してきました。
統合失調症と診断され、そのように差別されてきたCさんに、現在、登場してもらっています。そして、そのCさんがほんとうは「理解可能」であるということを、7つの場面をもちいて確認しようとしています。
ここまでそのなかから、場面を3つ見てきました。ひとつは「Cさん中学生時代の場面」、残りふたつは「Cさん現在の寝起き場面」でした。
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参考1:Cさん中学生時代の場面
参考2:Cさん現在の寝起き場面
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それら3場面を見てきたのとおなじ要領で、いまから、引用のつづきをさらに追っていきますよ。今回は最後の4場面をつづけざまに見ていきます。
体感幻覚だけではなく、Cを悩ます症状に幻聴さんがある。体験幻覚と幻聴さんは、苦労の両輪となってやってくる。そこで体験幻覚のチェックと同様に、Cにどのような幻聴さんが影響を与えているのかを調査した。(略)
[パターン①]高校生幻聴下校の途中に「働かないで何してんだ」「あいつは変態だ」みたいにバカにしてくる。
対処方法▶高校生に向かってにらむ、怒鳴る、喧嘩を売る。
結果▶かえって関係が険悪になって傷口をひろげる(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、p.121、ただしゴシック化は引用者による)。
下校途中の高校生と道ですれ違うとき、Cさんは高校生に内心、「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと思われているのではないかと気になるのかもしれませんね。
だけどCさんからすると、その場面で自分が、そんなことを気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのときCさんには、気にしているはずがないという自信があるんだ、って。自分が、高校生に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信が、って。
で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解する。
道ですれ違いざま、下校途中の高校生が「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと言ってくるのが聞こえる、って。
そこでCさんは「高校生に向かってにらむ、怒鳴る、喧嘩を売る」。
いまこう推測しました。
高校生とすれ違うとき、Cさんは、高校生に「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと内心悪く思われているのではないかと気になる(現実)。しかしそのCさんには、自分が、高校生に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはないという「自信」がある。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかではないかと依然、俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。
で、その場面でCさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解する。
道ですれ違いざま、下校途中の高校生が「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと言ってくるのが聞こえる。
いまの推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①高校生とすれ違うとき、高校生に内心悪く思われているのではないかと気になる(現実)。
- ②そんなことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「すれ違いざま、高校生が悪口を言ってくるのが聞こえる」(現実修正解釈)
2021年9月7,10日に文章を一部修正しました。
*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。
part.1(短編NO.14)
part.2(短編NO.15)
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。