*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.15
◆場面5:テレビ・ラジオ幻聴
[パターン②]テレビ・ラジオ幻聴
テレビのコマーシャルで「この犬!」と言われたり、犬のダイエット食品を勧めてきたりする。ほかにも自分に関する多種多様な情報が流れてくる。
対処方法▶テレビがおかしくなったと思い、家族に相談する。
結果▶医師に「この子頭おかしいですから、薬を増やしてください」と家族が頼んで、しばらく外に出さないようにさせられる。家族はCがおかしくなったと思い、喧嘩が始まる(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.121-122、ただしゴシック化は引用者による)。
ひょっとするとCさんは犬のダイエット食品のCMを見ているとき、その味が気になるのかもしれませんね。みなさんもそうしたCMを見て、犬の食品の味が気になったこと、ありません? だって、映っている食品、とても美味しそうに見えませんか。味が気になっても何らおかしなことはないと俺は思いますけど、みなさん、どうですか?
Cさんは犬のダイエット食品のCMを見て、その味が気になる(現実)。ところがCさんには同時に「自信」があるのかもしれませんね。自分が犬の食品の味なんかを気にしているはずはないとでもいった自信が。そのように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。
- A.現実に合うよう、自信のほうを修正する。
- B.自信に合うよう、現実のほうを修正する。
で、その場面でもCさんは、後者Bの「自信に合うよう、現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が犬の食品の味なんかを気にしているはずはないといったその自信に合うよう、現実をこう解する。
テレビCMが僕を犬扱いし、犬のダイエット食品を勧めてくる、って。
そのような解釈をしてCさんは、「犬のダイエット食品に惹かれている」という現実を、「CMが犬のダイエット食品を押しつけてくる」ということにするのかもしれませんね。
箇条書きでまとめるとこうなります。
- ①犬のダイエット食品のCMを見て、その味が気になる(現実)
- ②犬のダイエット食品の味なんかを自分が気にしているはずはないといった自信がある(現実と背反している自信)
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「CMが僕に犬のダイエット食品を勧めてくる」(現実修正解釈)
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