(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「朝鏡を見ると、顔や身体の他の部分に女性の名や悪口などが描かれている」を理解する(1/2)【統合失調症理解#7-part.2】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.14

目次
・場面2:朝起きたら身体中が痛い
・場面3:朝起きたら身体中に落書きされている


◆場面2:朝起きたら身体中が痛い

理解不可能なひとなどこの世にただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。だけど(精神)医学は、一部のひとたちを不当にも「理解不可能」と決めつけ、差別してきました。


 そこでそのことを実地に確認するために、前回統合失調症と診断され、そのように差別されてきたCさんに登場してもらいCさん本人が挙げてくれる7つの場面を見てみることにしました

 

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前回の記事

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 前回は、その7場面のうち、最初のひとつ目だけを見ましたよね。Cさん中学生時代の場面でしたね。そのときの要領で、いまから、前回の引用のつづきを追っていきます(前回同様、引用文中に出てくる氏名も、Cと改めさせてもらいますね)。今回は場面をふたつ、とり挙げますよ。

 体感幻覚ボディマップに書き出された症状のなかでも、注目すべき二つの症状への対処方法について仲間やデイケアスタッフと検討した。二つの症状とは、「朝起きたら体中が痛い」という症状と、「朝起きて鏡を見ると顔に文字が書かれていた」という症状である。(略)


[体感幻覚①]朝起きたら体中が痛い、の巻き

 朝起きるとふくらはぎや首や骨盤のまわりに痛みが走る歯茎がグラグラする


✖️これまでの対処方法

 なぜ痛みがくるのかわからずひたすら首をかしげていた原因がわからないので住居の人を疑ったり家に仕掛けがあるんじゃないかと家中調べたりした


新たな対処法

 この手の仕業をする体感幻覚に「C専属整体師さん」、その名も〈タスケ〉と命名した。整体師のくせにプロレスが好きでたまに技をかけるので、プロレスラーの〝サスケ〟にちなんで、でもたまに助けてくれることもあるので、〝タスケ〟とした(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.116-117、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 朝起きると、首や足のつけ根が痛かったり(後者はつい最近、俺の身に起こったことです)、腰が痛かったり、ぐったりしていたり、手がしびれていたり、無感覚になっていたりするというのは、誰にだって経験のあることではないでしょうか。実にCさんにもそうしたことが時々あるのかもしれませんね。


 でもCさんからすると、自分の身にそうしたことが起こったりするはずはない、のではないでしょうか。いや、いっそ、Cさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。Cさんには自信があるんだ、って。朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという自信が、って。


 
で、そんなCさんは「なぜそうした痛みがくるのかわからずひたすら首をかしげ」ることになるのかもしれませんね。


 そして、家の誰かが、夜寝ているあいだにイタズラをしたのだろうかとか、家に何か仕掛けがあるのだろうかと考えることになるのかもしれませんね。そういったイタズラもしくは仕掛けがあるということでもなければ説明がつかない、とCさんには思われるということなのかもしれませんね。


 いま、こう推測しましたよ。


 朝起きると、身体に痛みがある(現実)。ところがそのCさんには、朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、前回も言いましたように、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 では、もしそこでCさんが、前者Aの「自信のほうを訂正する」手をとっていたら、事はどうなっていたか、ひとつ考えてみましょうか。もしとっていたら、Cさんは、こんなふうに自信を改めることになっていたかもしれませんね。


 朝起きると身体のどこかに痛みがあるといったようなことは現にあることなんだな。へー、意外だったな、勉強になった、って。


 でもそこでCさんが実際にとるのは、後者Bの「現実のほうを修正する」手であるわけです。Cさんは、朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという自信に合うよう、現実をこう解する。


 夜寝ているあいだに誰かにイタズラをされたのではないか、いや、それとも、家に何か仕掛けでもあるのか。そういうことでもなければ、僕の身体が痛んでいるはずはない、って。


 先に進むまえに、いまの推測を箇条書きにしてまとめておきますね。こういうことでした。

  • ①朝起きると、身体に痛みがある(現実)。
  • ②朝起きたときに身体に痛みがあるはずはないという自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「夜寝ているあいだに、誰かがイタズラをしたのではないか。それとも、家に何か仕掛けでもあるのか。そういうことでもなければ、僕の身体が痛んでいるはずはない」(現実修正解釈





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2020年5月12日に5文字追加しました。また2021年9月6,7,9日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.13)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。