*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.9
つまり、こういうことです。
たとえば、大学から帰宅したあと部屋でひとりになった男子大学生さんが、自分はひとに内心「勉強できなさそうだなあ」とか「カッコ悪いなあ」といったように悪く思われているのではないかとしきりに気にしているような場面をひとつ、想像してみてくれますか。
ところが、その男子大学生さんからすると、自分がそこでそんなことを気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、男子大学生さんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてしまいましょうか。そのとき男子大学生さんには、自分がそんなことを気にしているはずはないという自信があったんだ、って。
で、その自信に合うよう、男子大学生さんは現実をこう解した。
「勉強できなさそうだなあ」とか「カッコ悪いなあ」とボクを悪くいう声が聞こえてくる、って。
でも、その声はいったいどこから聞こえてくるのか。男子大学生さんには隣の家からだと思われた。結果、それから数年後、「また幻聴が聞こえるようになり、眠れなくなった」とき、とうとう我慢の限界に達し、「もう聞き捨てならない」とばかりに隣家へ怒鳴り込んでいくことになった
男子大学生さんの「隣から悪口が聞こえてくる」という訴えから、俺はそのような場面を思い描いたりしましたが、みなさんはどうですか。
ここでも、いま見たところを箇条書きにしてみますね。内容は、最初にふり返った男性患者さんの場合とほとんどおなじです。
- ①周りのひとたちに内心悪く思われているのではないかと気になる(現実)
- ②そうしたことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「悪口が聞こえてくる」(現実修正解釈)
2021年8月4,11,12日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/5)はこちら。
*前回の短編(短編NO.8)はこちら。
*このシリーズ(全26短編を予定)の記事一覧はこちら。