(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「自分しか知らないはずのことをみんなが何故か知っている」「幻聴が同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと言ってくる」「夜になると近所から悪口が聞こえる」を理解する(3/4)【統合失調症理解#7-part.1】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.13


◆同級生、家族、近所からの悪口

「だから学校へはだんだんと行けなくなった。(略)なんとか学校へ行っても、幻聴さんが同級生の声で『早く死んじゃえばいいのに』と意地悪なことを言ってきた」。


 頑張って久しぶりに学校へ行き、教室のなかにぽつんと座っていたCさんは、同級生たちに早く死んじゃえばいいのにと思われているのではないかと気になって針のむしろにいるようだったのかもしれませんね(現実)。


 ところがCさんからすると、その場面で自分が、同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのときCさんには、自分が同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、Cさんはその自信に合うよう、現実をこう解した。


 同級生の『早く死んじゃえばいいのに』という声が聞こえてくる、って。


 さらにその頃Cさんは、家族にも「なんだアイツは学校にも行かずに」とか「いつも寝てばっかりでダメな奴だ」といったふうに内心悪く思われているのでないかと気にするようになっていたのかもしれませんね(現実)。


 ところが、Cさんからすると、そうした場面で自分が、家族に内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。つまり、先ほど同様、少々語弊があるかもしれないことを恐れながらも、Cさんのその見立てを言い換えると、そのときCさんには、自分が家族に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があった。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解した。


 ボクの悪口を言っている家族の声が聞こえてくる、って。


 実際、「家族にも『言いたいことがあったら面と向かって言え!』と怒鳴ることが多くなっていた」と書いてありましたよね。それは、家族が面と向かわず、遠くから「声」で何かを言ってきているとCさんが解していたということの証拠ではありませんか。


 いま続けざまに2件見てきたその要領で、最後、3件目に行きましょう。


 みなさん、学校や職場、街中などで人中にいるときよりも、部屋にひとりきりでいるときのほうが、逆に社会がヒシヒシと感じられてくるといったようなこと、ありませんか。その頃、部屋に籠もっていたCさんには、社会のなかにいる自分の身がヒシヒシと思いやられ、近所のひとたちに「あの子、学校にも行かないで何?」とか「将来のこと、どう考えているのかしら」といったふうに悪く思われているのではないかとしきりに気になったのかもしれませんね(現実)。


 でも、Cさんからすると、そこで自分が、近所のひとたちに内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、先ほど同様、こう言い換えてしまいましょうか。そのときCさんには、自分が近所のひとたちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解した。


 近所のひとたちの、ボクを悪く言う声が聞こえてくる、って。


 そしてそんなCさんは「夜になると近所から自分の悪口が聞こえたので、そのころ聞きはじめたポップス音楽をガンガンかけた」。


 さあ、いま、立てつづけに3件見てきました。でも、Cさんの身に起こっていたと思われることはどの場面でもおなじでしたね。まず、「現実自信とが背反していました。そのように「現実」と「自信」が背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、さっきも言いましたが、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。


 で、Cさんはその都度後者Bの現実のほうを修正する手をとっていましたね。


 結果、ひと(同級生、家族、近所のひとたち)の、ボクを悪く言う声が聞こえてくると解することになったのではないか、ということでしたね。


 箇条書きにするとこうなります。

  • ①ひと(同級生、親、近所のひとたち)に悪く思われているのではないかと気になる(現実)。
  • ②ひとに悪く思われているのではないかと気にしているはずはないという自信がある(現実に背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「ひとの、ボクを悪く言う声が聞こえてくる」(現実修正解釈





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2021年9月3,4,5,6日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/4)はこちら。


*前回の短編(短編NO.12)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。