*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.13
◆同級生、家族、近所からの悪口
「だから学校へはだんだんと行けなくなった。(略)なんとか学校へ行っても、幻聴さんが同級生の声で『早く死んじゃえばいいのに』と意地悪なことを言ってきた」。
頑張って久しぶりに学校へ行き、教室のなかにぽつんと座っていたCさんは、同級生たちに「早く死んじゃえばいいのに」と思われているのではないかと気になって、針のむしろにいるようだったのかもしれませんね(現実)。ところがその反面、Cさんには「自信」があった。同級生たちに内心悪く思われているのではないかと自分が気にしているはずはないといった自信が。で、その自信に合うよう、現実をこう解した。
「同級生の声が『早く死んじゃえばいいのに』と意地悪なことを言ってき」て、僕は居たたまれなくなった、って。
そしてその頃、Cさんは家族にも「なんだアイツは学校にも行かずに」とか「いつも寝てばっかりでダメな奴だ」といったふうに内心悪く思われているのでないかと気にするようになっていたのかもしれませんね(現実)。ところが、Cさんには「自信」があった。家族に内心悪く思われているのではないかと自分が気にしているはずはないといった自信が。で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解した。
家族の声が悪口を言ってきて、僕を責める、って。
実際、「家族にも『言いたいことがあったら面と向かって言え!』と怒鳴ることが多くなっていた」と書いてありましたよね。それは、家族が面と向かわず、遠くから「声」で何かを言ってきているとCさんが解していたということの証拠ではありませんか。
さて、学校や職場、街中などでひとのなかにいるときより、部屋にひとりきりでいるときのほうが、逆に社会がヒシヒシと感じられるといったようなことって、みなさん、ありません? 夜になると、Cさんには、社会のなかにいる自分の身がヒシヒシと思いやられ、近所のひとたちに「あの子、学校にも行かないで何?」とか「将来のこと、どう考えているのかしら」といったふうに悪く思われているのではないかとしきりに気になったのかもしれませんね(現実)。でも、やっぱりCさんには「自信」があった。近所のひとたちに内心悪く思われているのではないかと自分が気にしているはずはないといった自信が。で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解したのかもしれませんね。
近所のひとたちの声が悪口を言ってきて、僕を困らせる、って。
そんなCさんは「夜になると近所から自分の悪口が聞こえたので、そのころ聞きはじめたポップス音楽をガンガンかけた」。
いま、立てつづけに、3件見ましたよ。でも、Cさんの身に起こっていたと思われることはどの場面でもおなじでしたね。まず、「現実」と「自信」とが背反していました。そのように「現実」と「自信」が背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、さっきも言いましたが、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。
- A.現実に合うよう、自信のほうを修正する。
- B.自信に合うよう、現実のほうを修正する。
で、Cさんはその都度、後者Bの「自信に合うよう、現実のほうを修正する」手をとっていましたね。
その結果、ひと(同級生、家族、近所のひとたち)の声が悪口を言ってきて、僕を苦しめると解することになったのではないか、ということでしたね。
箇条書きにするとこうなります。
- ①ひと(同級生、親、近所のひとたち)に内心悪く思われているのではないかと気にしている(現実)。
- ②自分が、ひとに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはないといった自信がある(現実に背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「ひとの声が悪口を言ってきて、僕を困らせる」(現実修正解釈)
今回の最初の記事(1/4)はこちら。
前回の短編(短編NO.12)はこちら。
このシリーズ(全26短編を予定)の記事一覧はこちら。