(新)Nothing happens to me.

科学はボタンをかけ違えたまま来たのではないでしょうか。

「統合失調症」は永久に解くことのできぬ謎か?

障害という言葉のどこに差別があるか考える第23回

 ひとを正常と異常に振り分けることが、人間理解をはなっから拒むことである旨、確認しています。


 簡単に言うと、こういうことでした。


 ひとを正常と異常に振り分けるとは、ひとを「理解され得るもの」と「理解され得ないもの」とに分けることである。けれども第1部で確認したように、異常なひとはこの世に存在しない。すなわち、「理解され得ないひとはこの世に存在しない。かならず誰もが理解され得る。ひとを異常と見るのはかならず理解され得るはずのひとを不当にも理解され得ないものと決めつけはなっから理解するのを拒むことに他ならない。


 最後にこのことを、精神科医がしばしば以下のように永遠に「理解され得ない」と言う統合失調症を例に、確認します。

かつてクルト・コレは、精神分裂病引用者注:1973年の出版当時、統合失調症精神分裂病という名で呼ばれていました)を「デルフォイの神託」にたとえた。私にとっても、分裂病は人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎であるような気がする。(略)私たちは分裂病という事態を「異常」で悲しむべきこととみなす「正常人」の立場をも捨てられないのではないだろうか*1


 第2部の考察で、科学が誰を不当にも異常と決めつけるか、明らかになりました。不当にも異常と決めつけられるのは、〈標準より劣っていると科学に思われるひとたち〉でした。精神医学は、〈標準より劣っていると思う言動や感情や認識や記憶や〉を不当にも異常と決めつけます。それは、そうした言動や感情や認識や記憶やを、理解され得るはずであるにもかかわらず理解され得ないものと不当にも決めつけはなっから理解するのを拒むことです。精神医学はそうした言動や感情や認識や記憶やを理解するのを拒んだまま、「理解され得ないものとして説明します統合失調症の場合なら、患者は常識を欠いているとか、自明性を喪失している(当たりまえのことがわからなくなっている)とか、非論理的であるといったふうにです。


 裏返してみれば、精神医学のこうした説明を素直に聞き入れることは世間のひとたちにとって、統合失調症と診断されたひとたちを「理解され得ない」ものとして思い描くことだと言えます。統合失調症を世間に理解してもらおうとして精神医学のそうした説明を流布させればさせるほど、統合失調症と診断されたひとたちはひろく世間に、「理解され得ない」人間と決めつけられていくことになります


 しかし何度も復唱しておりますように、異常なひとはこの世に存在しません。つまり、「理解され得ない言動や感情や認識や記憶やはありません


 前のほうで、統合失調症と診断された男性のある例を二度くり返して見ました。つぎ三度目になります

 家族から、よく電話で浪費をいさめられている男性患者は、電話でガミガミ叱責された後で、幻聴がすると訴えた。幻聴は、「小遣いばかり使って」「お菓子ばかり食べて、あんなに太っている」と自分を非難する内容だった*2


 精神医学は男性のこうした体験を幻聴体験と言い、「理解され得ない」ものとして説明します。


 けれどもみなさんと俺はこの文章のなかでこの男性の訴えに男性の身になって耳を澄ませ、理解し得たとは断言できないかもしれませんが、少なくとも理解できそうなところまでは近づき得たと胸をはれるくらいになったのではなかったでしょうか。男性は家族に叱られてから、周りのひとたちも内心、男性のことを非難しているのではないかと気にして苦しむようになった(男性のその気持ち、みなさんとてもよくおわかりになるでしょう)。ところが男性にはゆるぎない自信があった。自分は周りのひとたちに内心、非難されているのではないかと気にしたりするような人間ではないという自信が(誰しも自分はコレコレこういう人間であるというイメージをもっているものです)。男性はそんな自信にもとづいて、ひとに内心、非難されているのではないかと気にしている現実を、悪く言ってくる声につきまとわれていることと解釈した。


 いまやみなさんは男性の訴えを、「理解され得ないとは決してお考えにならないのではないでしょうか。


 発達障害認知症などを例に挙げることもできたとお思いのかたもいらっしゃるかもしれませんが、ここでは統合失調症の一例を用いて、ひとを異常と見ることが、かならず理解され得るはずのひとを「理解され得ない」ものと不当に決めつけ、はなっから理解するのを拒むことである旨、確認しました*3


統合失調症」が永遠に解けない謎なんかではないことを確認したほかの記事は下にあります。

whatisgoing-on.hateblo.jp


前回の記事はこちら。

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このシリーズの記事一覧はこちら。

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*1:木村敏『異常の構造』講談社現代新書、2008年、182頁、1973年

異常の構造 (講談社現代新書)

異常の構造 (講談社現代新書)

 

*2:岡田尊司統合失調症PHP新書、2016年、95ページ、2010年

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 

*3:2018年5月7日と同年8月3日に、内容はそのままで表現のみ一部修正しました。