(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(6/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35


 いまこう推測しましたよ。


 ひととすれ違うさい、Nさんは、「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりした(現実)。ところがそのNさんには、自分が「肩身の狭さ」を感じたり、「劣等感」を覚えたりしているはずはないという「自信」があった。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、Nさんはその場面でも後者Bの手をとった。自分が「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解釈した。


 すれ違いさまにひとが、「社会にお前の居場所なんか無い(うざいぞ)」とか「お前なんかダメだ(この、バカ)」とか言ってくるのが聞こえる、って。


 いまの推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。

  • ①ひととすれ違うさい、「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだ」と劣等感を覚えたりする(現実)。
  • ②自分がそうしたものを感じたり、覚えたりしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「すれ違いざま、ひとが『社会にお前の居場所なんか無い(うざいぞ)』とか『お前なんかダメだ(この、バカ)』とか言ってくるのが聞こえる」(現実修正解釈)。


 要するに、ひととすれ違う際自分が肩身の狭さを感じたり、「劣等感を覚えたりしていることに、Nさん自身、気づいていなかったのではないか、ということですよ。


 ここでもまた、Nさんは、自分のことがうまく理解できていなかったのではないか、ということです。





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2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/8)はこちら。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(5/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35


◆ひととすれ違う際、悪口が聞こえてくる

 さて、そんなあるとき、図書館から借りてきた女性アイドルのCDをカセットテープに録音しているところを母親に見咎められ、家出するという出来事が起こったとのことでした。それ以降、Nさんは落ち着きがなくなり、「日中、ふらっと出かけたかと思うと、遅い時間まで戻ってこなかったり、カラオケボックスに行き、三〜四時間も一人で歌っていたりすることもあった」ということでしたね。


 先の引用文には、その頃、幻聴は依然見られていたと書いてありました。こういうことでしたね。Nさんは「路上で通行人とすれちがう際、『うざいぞ』『このバカなど自分に向けての悪口が聞こえてくると訴えた。しかし、家族はこれを病気の症状とは思わず、受験前で精神的に不安定になっているととらえていた」って。


 自分が落ちこぼれていることを身にしみて実感していたNさんは、世間のひとたちとすれ違うたび、「社会に自分の居場所なんか無いと肩身の狭さを感じたり、「自分なんかダメだと劣等感を覚えたりするまでになっていた、ということなのかもしれませんね。


 けど、Nさんにしてみれば、自分がひととすれ違うさい、そんなふうに「肩身の狭さ」を感じたり、「劣等感」を覚えたりするはずはなかった。


 いや、そのNさんの見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、ここでも、こう言い改めてしまいましょうか。そのときNさんには、自分が肩身の狭さを感じたり、「劣等感を覚えたりしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、その自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。


 すれ違いざまにひとが、「社会にお前の居場所なんか無い(うざいぞ)」とか「お前なんかダメだ(この、バカ)」とか言ってくるのが聞こえる、って。





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2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/8)はこちら。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


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統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(4/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35


◆わかってはいるが、できない

 そして、そのように勉強にうまく集中できないでいたNさんは、アイドルのことに没頭していったということでしたね。勉強する代わりに、いろんな図書館から、古いアイドルのCDを借りてきては、気に入った曲をカセットテープに録音するといったことを繰り返し、むしろ生き生きとしているように当時見えていたということでしたね。


 だけど、そんなNさんも、勉強しないといけないとは重々わかっていたに違いないとみなさん、思いません? でも勉強が手につかない。で、そうこうするうちに成績も落ちるところまで落ちてしまった。生き生きしているように見えてはいても、内心Nさんは追い詰められていたかもしれませんよね。


 このように、わかってはいてもなかなかできないことって、世のなかにたくさんありません? 禁煙しないといけないとわかってはいるが、できないとか、禁酒しないといけないとはわかっているが、できないとか、運動しないといけないとはわかっているが、できないとか、わかってはいても、つい食べ過ぎてしまう、ギャンブルや不倫がやめられない、とか、ね?


 わかってはいても、できないでいる、そうしたNさんの状態に、同情できるひと、世のなかにはたくさんいるのではないでしょうか。





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2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/8)はこちら。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

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統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(3/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35


 いまこう推測しましたよ。くどくどと振り返ってみますね。


 問題集を開いて勉強しようとしていると、同級生たちに内心「うぜえ」とか「死んじまえ」とかと思われているのではないかと気になってくる(現実)。しかしそのNさんには、自分がそんなことを気にしているはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 では、もしその場面でNさんが前者Aの「自信のほうを訂正する」手をとっていたら、どうなっていたか、ひとつ想像してみましょうか。


 もしとっていたら、Aさんは、たとえばこんなふうに自分の「自信」を改めることになっていたかもしれませんね。


「ああ、勉強中なのに、なんとボクは、同級生たちにどう思われているかなんてことを気にしてるよ! がっかりだよ。しっかりしろよ、ボク!」


 でも、その場面でNさんが実際にとったのは後者Bの「現実のほうを修正する」手だった。自分が同級生たちに悪く思われているのではないかと気にしているはずはないとするその自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。


「うぜえ」とか「死んじまえ」とかといった同級生たちの声が聞こえてくる、って。


 箇条書きにしてまとめるとこうなります。

  • ①同級生たちに「うぜえ」とか「死んじまえ」とかと思われているのではないかと気になる(現実)。
  • ②そんなことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「『うぜえ』とか『死んじまえ』とかといった同級生たちの声が聞こえてくる」(現実修正解釈


 要するに、同級生たちに内心悪く思われているのではないかと自分が気にしていることにNさん自身、気づいていなかったのではないかということですよ。


 自分のことがうまく理解できていなかったのではないか、ということです。





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2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/8)はこちら。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(2/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35


◆いじめが深刻になってきて勉強どころではない

 引用文の冒頭部分によると、高校卒業間近には、卒業できないかもしれないと心配されるほど、学校の成績は悪くなっていたということでしたね。あまり勉強しなかったのでしょうね。


 でも、俺、こう思います。勉強しないといけないとNさん自身もよくわかっていた、いや、Nさんが一番そのことをわかっていたのではないか、って。だけど、勉強しようと頑張っても、他事が気になって、できなかったんだろう、って。


 ほら、こんなことを言うひと、みなさんの周りにもいませんでした? 試験勉強をしたり、レポートを書いたりしないといけないときに限って、なぜか部屋が散らかっているのが気になり、掃除をはじめてしまうんだ、って。


 そんなふうに、勉強しようとしはじめた途端、他事が強く気になってくることって、ありますよね。Nさんにも、そうしたことが起こっていたのではないでしょうか。


 現にさっきの引用文中に、「いじめが深刻になってきて、勉強どころではなくなっていた」とNさんが言っていた旨、記してありましたよね。「だが、いじめが実際にあったわけではなく、やはり被害妄想によるものだった。幻聴も散発しており、『うぜえ』とか、『死んじまえ』などという同級生の声が聞こえていた」ということでしたね。


 勉強しようとして机に向かっていると、同級生たちはボクのことを内心うぜえとか死んじまえとかと思っているのではないかと気になってきて勉強がそっちのけになってしまったのかもしれませんね。


 でも、Nさんからすると、勉強しようとしているそのときに、自分がそんなことを気にしたりするはずはなかった。


 いや、いっそ、Nさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い改めてみることにしましょうか。そのときNさんには、自分が同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、その自信に合うよう、Nさんは現実をこう解した。


 問題集を開いて勉強しようとしていると、「うぜえ」とか「死んじまえ」とかいう同級生たちの声が聞こえてきて、勉強どころではなくなる、って。





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2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「いじめなど無いのに、いじめが深刻で、勉強に集中できない」「同級生や通行人に悪口を言われるのが聞こえる(幻聴)」「女の子のことで頭がいっぱいになる」を理解する(1/8)【統合失調症理解#16-vol.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.35

目次
・引用第2部で確認する3つの事項
・いじめが深刻になってきて勉強どころではない
・わかってはいるが、できない
・ひととすれ違う際、悪口が聞こえてくる
・慶応の最難関学部に合格することが決まっている
・part.3の締めの言葉


◆引用第2部で確認する3つの事項

 いま、「思春期に発症し典型的な経過がみられた統合失調症のケース」*1とされる事例を見させてもらっていますよね。


 その事例の当事者Nさんが、(精神)医学の見立てに反し、ほんとうは理解可能であることを実地にひとつひとつ確認しようとしているところですね。


 今回は引用第2部を見ていきますよ。その引用第2部には、Nさんの高校生時代と浪人1年目のことがつぎのように書かれています。

 心乱れて

 高校三年となり、Nさんの症状は幾分安定したが、学校の成績は振るわなかった。卒業間近の試験は合格点に届かないものがいくつかあり、卒業できないかもしれないと心配されるほどだった。


 この点について本人は、「いじめが深刻になってきて、勉強どころではなくなっていた」と述べている。だが、いじめが実際にあったわけではなく、やはり被害妄想によるものだった。幻聴も散発しており、「うぜえ」とか、「死んじまえ」などという同級生の声が聞こえていた。


 担任は精神科受診をすすめたが、本人は嫌がって承諾しなかった。勉強が手につかず、あちこちの図書館を回って、古いアイドルのCDを借りて歩き、気に入ればカセットテープに録音していた。家族はNさんが図書館で勉強していると思っており、この時期、生き生きして元気だと感じていた。


 ところが、母親がNさんの部屋の掃除をしているとき、たまたま相当な量のカセットテープの山を発見した。驚いた母親は、「何やっているの、こんな大切な時期に」と怒ると、彼は何も言わずにぷいと家を出て、一晩帰ってこなかった。その翌朝、本人は登校時刻の前に、こっそり戻ってきた。本人に何をしていたのか尋ねると、「嫌なことが多いから、山の中で死のうと思った。でも、淋しくなって帰ってきた」と淡々と答えた。


 それから受験までの間、Nさんの行動には落ち着いた所がなくなった。日中、ふらっと出かけたかと思うと、遅い時間まで戻ってこなかったり、カラオケボックスに行き、三〜四時間も一人で歌っていたりすることもあった。


 幻聴は引き続きみられ、路上で、通行人とすれちがう際、「うざいぞ」「この、バカ」など自分に向けての悪口が聞こえてくると訴えた。しかし、家族はこれを病気の症状とは思わず、受験前で精神的に不安定になっているととらえていた。


 受験した大学は、すべて不合格だった。三月の中旬、高校の卒業式の直前、Nさんは、自分のスナップ写真や学校の成績を、すべて破り捨てた。驚いて母親が理由を聞くと、「嫌な思い出ばかりだから、いいことは何もなかったから」と言う。母親が、「将来、結婚式のときに小さなころの写真が一枚もないなんてことになっちゃうと困るわ」とつぶやくと、Nさんは何も答えずに、ぼろぼろと涙を流して泣きじゃくった。


 四月からは、予備校に通い始めたが、調子はよくなかった。いじめられた嫌なことを思い出したり、受験に失敗したことを後悔したり、気持ちは不安定なことが多く、授業を聞いても頭にほとんど入らなかった。夜眠れずに、頭の中を歌謡曲がずっと聞こえていることもあった。


 Nさんの志望大学は、慶応大学だった。しかし、予備校に通っていたにもかかわらず、ほとんど勉強はしていなかった。以前と同様にNさんは、自転車で図書館に行ってCDを借り、自宅でテープに録音することを繰り返していた。母親が勉強するようにと咎めても、それをやめようとはしなかった。


 また、とても合格圏には達していないのに、「来年は、慶応の一番難しいところに合格することが決まっている」と言い出したりもする。入学後の下見だと言って、時間をかけて自転車で慶応大学まで行き、構内を何回も回って帰ってくることもあった(岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、pp.125-127)。

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

 


 どうでした? 何ひとつ「理解不可能」なことは書かれていませんでしたよね? よくわかることばかりでしたね? いま、つぎのことが確認できました。

  1. 完全に勉強が手につかなくなり、成績もかなり悪くなってしまったこと。
  2. 「社会に自分の居場所なんか無い」と肩身の狭さを感じたり、通りすがりのひとたちに劣等感を覚えたりするまでになってしまったこと。
  3. 自分のことがうまく理解できないでいること。


 以後、じっくりとこの3点を確認してきます。


 さっそくはじめましょう。今回は、いま見た引用文を頭から順に追っていきます。





         (1/8) (→2/8へ進む

 

 




2021年8月14日に文章を一部修正しました。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

*1:岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、p.122、2010年

統合失調症の「誰かに嫌がらせを受けていた事実は認められないが、本人曰く、いじめに繰り返しあっていた」「自室にいるとき、女性の顔のようなものが見える(幻視)」を理解する(8/8)【統合失調症理解#16-vol.2】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.34


◆part.2の締めの言葉

 以上、今回はつぎの2点を確認しました。一つは、Nさんが、勉強しないといけない身であるにもかかわらず、勉強を重荷に感じるようになってきているということ。もう一つは、Nさんが、Nさん自身のことをうまく理解できなくなってきているということ、でしたね。


 で、後者については例をふたつ挙げました。自分が同級生たちを疑りすぎているのに気づいていないということ、及び、自分がかなり女性に夢中になっているのに気づいていないということ、のふたつでしたね。


 どうでした? Nさんに「理解不可能なことは何一つ起こっていませんでしたよね?


 音楽をつい頭のなかで再生してしまって勉強にうまく集中できない。同級生たちを疑りすぎる。勉強中に女性のことに気をとられてしまう等々。そうした、思春期を迎えた中学生にはよく見られることがNさんにも起こっていただけですね? ただ一つ、ちょっと注釈が必要かもしれないことがあるとすれば、それは、NさんがNさん自身のことをうまく理解できていないということですけど、それも思春期にはよくあることなのではないでしょうか。


 さっきも言いましたように、思春期になると、自分がそれまでとはいろんな面で大きく変わってきますよね。特に多感になってきますね。そうして、それまで自分自身にたいしてもっていた「自分とはコレコレこういう人間である」というイメージから、実際の自分が乖離していきますね? そのとき、自分自身にたいしてもってきたイメージを、新しい自分のありようにも合致するものとなるよう、修正することがうまくできない、つまり、新しい自分について行けないということは、程度の差はあれ、思春期には誰にでもあることなのではありませんか。


 いや、たしかに、ついさっき、Nさんに「理解不可能」なことは何一つ起こっていなかったと言いましたよ。だけど、もちろん、Nさんのことをいま完璧に理解し得たとまでは言うつもりはありません。むしろ、正直な話、Nさんのことを多々誤ったふうに決めつけてきてしまったのではないかと気が咎め、いま密かに反省しているところです。


 とはいえ、さすがに、今回見たNさんが「理解可能」であるということ自体は疑えませんよね?


 みなさんのように申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、今回のNさんが完璧に理解できるということは、十分明らかになりましたね?


 このあと、ひきつづき引用第2部を、この要領で見ていきます。





7/8に戻る←) (8/8) (→次回短編へつづく

 

 




2021年8月13日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/8)はこちら。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.2)。

  • part.1(短編NO.33)

  • Part.3(短編NO.35)

  • Part.4(短編NO.36)

  • Part.5(短編NO.37)

  • Part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。