(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「思春期に発症し、典型的な経過がみられたケース」を理解するpart.3(統合失調症理解#16)(1/8)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.35

目次
・引用第2部で確認する3つの事項
・いじめが深刻になってきて勉強どころではない
・わかってはいるが、できない
・ひととすれ違う際、悪口が聞こえてくる
・慶応の最難関学部に合格することが決まっている
・part.3の締めの言葉


◆引用第2部で確認する3つの事項

 いま、「思春期に発症し典型的な経過がみられた統合失調症のケース」*1とされる事例を見させてもらっていますよね。


 その事例の当事者Nさんが、(精神)医学の見立てに反し、ほんとうは理解可能であることを実地にひとつひとつ確認しようとしていますね。


 今回は引用第2部を見ていきますよ。その引用第2部には、Nさんの高校生時代と浪人1年目のことがつぎのように書かれています。

 心乱れて

 高校三年となり、Nさんの症状は幾分安定したが、学校の成績は振るわなかった。卒業間近の試験は合格点に届かないものがいくつかあり、卒業できないかもしれないと心配されるほどだった。


 この点について本人は、「いじめが深刻になってきて、勉強どころではなくなっていた」と述べている。だが、いじめが実際にあったわけではなく、やはり被害妄想によるものだった。幻聴も散発しており、「うぜえ」とか、「死んじまえ」などという同級生の声が聞こえていた。


 担任は精神科受診をすすめたが、本人は嫌がって承諾しなかった。勉強が手につかず、あちこちの図書館を回って、古いアイドルのCDを借りて歩き、気に入ればカセットテープに録音していた。家族はNさんが図書館で勉強していると思っており、この時期、生き生きして元気だと感じていた。


 ところが、母親がNさんの部屋の掃除をしているとき、たまたま相当な量のカセットテープの山を発見した。驚いた母親は、「何やっているの、こんな大切な時期に」と怒ると、彼は何も言わずにぷいと家を出て、一晩帰ってこなかった。その翌朝、本人は登校時刻の前に、こっそり戻ってきた。本人に何をしていたのか尋ねると、「嫌なことが多いから、山の中で死のうと思った。でも、淋しくなって帰ってきた」と淡々と答えた。


 それから受験までの間、Nさんの行動には落ち着いた所がなくなった。日中、ふらっと出かけたかと思うと、遅い時間まで戻ってこなかったり、カラオケボックスに行き、三〜四時間も一人で歌っていたりすることもあった。


 幻聴は引き続きみられ、路上で、通行人とすれちがう際、「うざいぞ」「この、バカ」など自分に向けての悪口が聞こえてくると訴えた。しかし、家族はこれを病気の症状とは思わず、受験前で精神的に不安定になっているととらえていた。


 受験した大学は、すべて不合格だった。三月の中旬、高校の卒業式の直前、Nさんは、自分のスナップ写真や学校の成績を、すべて破り捨てた。驚いて母親が理由を聞くと、「嫌な思い出ばかりだから、いいことは何もなかったから」と言う。母親が、「将来、結婚式のときに小さなころの写真が一枚もないなんてことになっちゃうと困るわ」とつぶやくと、Nさんは何も答えずに、ぼろぼろと涙を流して泣きじゃくった。


 四月からは、予備校に通い始めたが、調子はよくなかった。いじめられた嫌なことを思い出したり、受験に失敗したことを後悔したり、気持ちは不安定なことが多く、授業を聞いても頭にほとんど入らなかった。夜眠れずに、頭の中を歌謡曲がずっと聞こえていることもあった。


 Nさんの志望大学は、慶応大学だった。しかし、予備校に通っていたにもかかわらず、ほとんど勉強はしていなかった。以前と同様にNさんは、自転車で図書館に行ってCDを借り、自宅でテープに録音することを繰り返していた。母親が勉強するようにと咎めても、それをやめようとはしなかった。


 また、とても合格圏には達していないのに、「来年は、慶応の一番難しいところに合格することが決まっている」と言い出したりもする。入学後の下見だと言って、時間をかけて自転車で慶応大学まで行き、構内を何回も回って帰ってくることもあった(岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、pp.125-127)。

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

精神疾患 (角川ソフィア文庫)

 


 どうでした? 何ひとつ「理解不可能」なことは書かれていませんでしたよね? よくわかることばかりでしたね? いま、つぎのことが確認できました。

  1. 完全に勉強が手につかなくなり、成績もかなり悪くなってしまっていること。
  2. 「社会に自分の居場所は無い」と肩身の狭さを感じたり、通りすがりのひとたちに劣等感を覚えたりするまでになっていること。
  3. 自分のことがうまく理解できないでいること。


 以後、じっくりとこの3点を確認してきます。


 さっそくはじめましょう。今回は引用文を頭から順に追っていきます。


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Nさんのこの事例は全6回でお送りします。

  • part.1(短編NO.33)

  • part.2(短編NO.34)

  • Part.3(短編NO.35)


   今回

  • part.4(短編NO.36)

  • part.5(短編NO.37)

  • part.6(短編NO.38)


このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

*1:岩波明精神疾患角川ソフィア文庫、2018年、p.122、2010年