*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.10
◆場面5(食堂に入ると聞こえてくる声)
そして最後にAさんはこう言って、話を締めくくっていましたね。
いわゆる病気の症状としての被害妄想は、いまでも全然変わっていないし、治ってもいません。いまでも、買い物に行ってもひそひそと噂されます。食堂に入っても「あいつ、よく来れるな」という言葉が聞こえます。
Aさんはいまでも食堂に入ると、店員に「あいつ、よく来れるな」と思われているのではないかと気になり、居たたまれなくなる(現実)ということなのではないでしょうか。どうですか、みなさんのなかにも、お店(洋服屋さんなどが多いでしょうか)で、店員に疎んじられているように感じられ、居心地が悪くなるひと、けっこういるのではありませんか。世間にはひとりで食事処に入れないひとも結構いると言いますしね?
だけど、Aさんからすると、自分が食堂で、店員に悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかったのではないでしょうか。すなわち、そのときAさんには、「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信があったのではないでしょうか。で、その自信に合うよう、Aさんは現実をこう解した。
食堂に入ったら、「あいつ、よく来れるな」と店員が言っているのが、聞こえてきた、って。
- ①食堂に入ると、店員に「あいつ、よく来れるな」と思われているのではないかと気になってきた(現実)。
- ②「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「食堂に入ったら、『あいつ、よく来れるな』と店員が言っているのが聞こえてきた」(現実修正解釈)
2020年4月18日に、内容はそのままに文字を一部追加しました。また2021年8月9,10,11,12日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/10)はこちら。
*前回の短編(短編NO.9)はこちら。
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