*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.10
◆場面3(トイレに入っても噂される)
つぎの場面に進みましょう。
いつしか、私をいじめていた人たちが幻聴としてあらわれ、一日中私についてくるようになりました。私がどこに行こうとも、私の考えていることが相手に伝わります。繰り返し笑われたり、トイレに入っても「ねー、あれ見た? 見た?」と売り場の人たちから噂されます。
Aさんはこう言っていますよね。「私をいじめていた人たちが幻聴としてあらわれ、一日中私についてくるようになりました」って。これは、いつしかAさんが、従業員たちにどう思われているかを、一日中、気にするようになった(現実)ということを意味するのではありませんか。
でも、Aさんにしてみれば、自分が、従業員たちにどう思われているかを、日々の生活において、気にしたりするはずはなかった。すなわち、少々語弊のある言い方になってしまうかもしれませんけど、そのときAさんには、「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信があった。で、その自信に合うよう、Aさんは現実をこう解した。
従業員たちの声が一日中、わたしについてくる、って。
箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①従業員たちにどう思われているのか、一日中、気になる(現実)。
- ②「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「従業員たちの声が一日中、わたしについてくる」(現実修正解釈)
さらにAさんはこうも言っていましたね。「私がどこに行こうとも、私の考えていることが相手に伝わります。繰り返し笑われたり、トイレに入っても『ねー、あれ見た? 見た?』と売り場の人たちから噂されます」って。これはつまり、Aさんはどこに行っても、従業員たちに自分の考えを見抜かれ、嗤われたり噂されたりしているのではないかと気が気ではなくなり、トイレのなかですら息がつけなくなった(現実)ということを意味するのではありませんか。
でも、Aさんからすると、いまさっき言いましたように、自分が、従業員たちにどう思われているかを、日々の生活において、気にしたりするはずはなかった。すなわち、そのときのAさんには「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信があった。で、その自信に合うよう、Aさんは現実をこう解した。
どこに行っても、わたしの考えていることが従業員たちにモレ伝わり、嗤われたり噂されたりする。トイレに入ってすら、売り場のひとたちに噂されているのが聞こえてくるんだ、って。
- ①どこに行っても、従業員たちに自分の考えを見抜かれ、嗤われたり噂されたりしているのではないかと気が気ではなくなり、トイレのなかですら息がつけない(現実)。
- ②「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信がある(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「どこに行っても、わたしの考えていることが従業員たちにモレ伝わり、嗤われたり噂されたりする。トイレに入ってすら、売り場のひとたちに噂されているのが聞こえてくる」(現実修正解釈)
2020年4月18日に、内容はそのままに文字を一部追加しました。また2021年8月9,10,11,12日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/10)はこちら。
*前回の短編(短編NO.9)はこちら。
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。