(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「デブ、ブス、奴はダメだ、と言う声が聞こえてくる」を理解する(5/6)【統合失調症理解#18】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.40


◆すべての事例で共通して起こっていたこと

 以上、Dさんの引用文のなかに書かれてあった、統合失調症の症例(幻聴)とされる3つの事例について考察してきました。その3事例のいずれでも、Dさんがしていたのはおなじことだったのではないか、とのことでしたね。


 Dさんはいずれの事例でも
他人からの評価を気にしていた現実)。まわりのひとたちに常々、「デブ、ブス、副指揮者はダメだ、頼りがいがない」と思われていたのではないかとか、周囲のひとたちに「おしゃれっぽい、かわいい、きれい……」と思われているのではないかとか、先生に「Dは授業態度が良くないなあ」とかと思われているのではないか、といったふうに。でも、そのDさんには、自分が他人からの評価を気にしているはずはないという「自信」があった。で、いずれの事例でも、その自信に合うよう、現実を解釈したのではないか、ということでしたね。


 箇条書きにするとこういうことですね。

  • ①他人からの評価を気にしている(現実)。
  • ②自分が他人からの評価を気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「わたしのことを、とやかく言う声が聞こえてくる」(現実修正解釈


 3事例すべてでDさんがしていたのは、こうした現実修正解釈ではないか、ということでしたね。


 どうですか。みなさんもふだん、こんなふうに現実修正解釈をすること、しばしばありませんか。たとえば、こんなことありません?


 自分が間違っていた(現実)ことはいまや明らかである。なのに当時は、自分が間違っているはずはないといった自信があった(現実と背反している自信)。で、その自信に合うよう、現実をこう解していた。「ひとが嫉妬して私に難癖をつけているんだ」(現実修正解釈)。


 あるいは、自分には何の落ち度もなかった(現実)。なのに当時は、悪いのはきっと自分であるはずだという自信があった(現実と背反している自信)。で、その自信に合うよう、現実をこう解していた。「ひとに迷惑ばかりかけている」(現実修正解釈)。





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2021年8月12日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*前回の短編(短編NO.39)はこちら。


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