*身体をキカイ扱いする者の正体は第15回
精神医学は患者を精神に異常があるものとして理解しようとしますが、それではそのひとたちのことを理解できるようにはならないし、それどころかはなっから理解を拒むことになると申しました。
だとしますと、そのひとたちのことを理解するにはどうすればいいのでしょうか。
論理的に考える限り、ひとはたったひとりの例外もなくみな正常であり、異常なひとなど皆無であるということでした。いの一番に、しかも絶対確実に言えるのは、そのひとたちを精神に異常があるものと見るのをやめなければならないということです。
精神に異常があるものと見るのをやめれば、そのあとにできることはたったひとつにしぼられます。そのひとたちのことを、いわゆる健常者(精神医学に精神を正常であると判定されるひとたち)を理解しようとするときのように理解しようとすること、すなわち、そのひとの身になって考えること、しか残りません。
では、実際にここで、そのひとたちのことをそのひとたちの「身になって考え」てみようではありませんか。果してそれでそのひとたちのことを理解できるようになるか確かめてみましょう。
最初に軽く肩をほぐすべく、練習問題をふたつやってみます。
Aさんが俺の悪口を陰で言っているのに出くわしたあと、俺が暗い顔をしてみなさんに秘密めかしてこう告白するとします。
「ここだけの話、Aさんは悪い連中に洗脳されているようなのです」
Aさんが実は俺に悩まされ通しだったことをご存じのみなさんは、俺が「悪い連中」とか「洗脳」と言い出したことに一瞬びっくりなさいます。が、すぐに気をとり直して、俺がどうしてこんなことを言い出したのか、「俺の身になってお考えにな」ります。
どうでしょうか。みなさんはこうお考えになるのではないでしょうか。
「Aさんが陰で自分の悪口を言っているという現実に、目のまえの彼は直面しているが、彼はAさんのことを信じきっている。Aさんが自分の悪口を陰で言うことなどあり得ないという彼の自信はゆらいでいない。彼はその自信にもとづいて現実をこんなふうに解したのではないだろうか。『Aさんが陰で俺の悪口を言うなんてことはあるはずがないのに、どうしてこんなことになっているのだろう、あ、そうか、きっとAさんは悪い連中に洗脳されているのだ。いや、そうとしか考えられない。そうでもなければ、Aさんが俺の悪口を言うはずはないのだ』」
いまみなさんが「俺の身になってお考えにな」ったところを箇条書きでまとめますと、こうです。
- ① Aさんが陰で自分の悪口を言っているという現実に俺は直面する。
- ② 俺には、Aさんが陰で俺の悪口を言うなんてことはありえないというゆるぎない自信がある。
- ③ 俺はその自信にもとづいて現実を解釈する。「きっと、Aさんは悪い連中に洗脳されて俺の悪口を言うようになったのだ。そうでもなければ、Aさんが俺の悪口を言うはずがない」。
いまみなさんには、俺の言っていることを「俺の身になってお考え」いただきました。これを踏まえて、もうひとつ練習問題をしていただこうと考えています。
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