*身体をキカイ扱いする者の正体は第19回
精神医学は患者を精神に異常があるものとして理解しようとします。しかしそれでは患者のことを理解できないどころか、むしろはなっから理解するのを拒絶することになると申しました。
では、精神医学が精神に異常があるものと診断するひとたちを理解するにはどうすればいいのでしょうか。
- そのひとたちを異常のあるものと見るのをやめ、
- そのひとたちのことを、いわゆる健常者(精神医学に精神を正常であると判定されるひとたち)を理解しようとするときのように理解しようとすれば(そのひとの身になって考えれば)
いいのではないでしょうか。
統合失調症と診断されたひとたちのことを理解しようと、いまみなさんと共に、「そのひとたちの身になって考えて」います。
つぎの例に参ります。
家族から、よく電話で浪費をいさめられている男性患者は、電話でガミガミ叱責された後で、幻聴がすると訴えた。幻聴は、「小遣いばかり使って」「お菓子ばかり食べて、あんなに太っている」と自分を非難する内容だった(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2016年、95ページ、2010年)。
みなさんは「この男性の身になって」こうお考えになっているのではないでしょうか。
「電話で家族が浪費をいさめてきたのをきっかけに男性は、ほかのみんなも家族と同じように自分を見ているのではないか、すなわち『小遣いばかり使って』とか『お菓子ばかり食べて、あんなに太っている』と自分を内心、非難しているのではないかと気にしはじめた。だが男性にはこんなゆるぎない自信があった。自分は、みんなにどう思われているか気にしたりするような人間ではないという自信が。そんな自信がある男性には、みんなが内心自分を非難しているのではないかと気にすることは、自分を非難する声が聞こえてくることと解された」
いまみなさんが「男性の身になってお考え」になったところを箇条書きでまとめますと、こうです。
- ① 家族からの電話をきっかけに男性はほかのみんなにも内心同じように非難されているのではないかと気にし出す(現実)。
- ② 男性には、自分はみんなにどう思われているか気にするような人間ではないというゆるぎない自信がある。
- ③ そんな自信を持った男性には、みんなにも内心非難されているのではないかと気にすることは、自分を非難する声が聞こえてくることと解される(男性の現実解釈)。
ここまで、統合失調症と診断されるひとの例をいくつか用いて考察してきました。つぎのことをみなさんと共に確認できたものと思われます。精神医学が精神に異常があるとするひとたちを理解するには、そのひとたちを異常のあるものと見るのをやめ、いわゆる健常者(精神医学に精神を正常であると判定されるひとたち)を理解しようとするときのように理解しようとする必要がある。
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