*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.9
目次
・初診時21歳男性の訴え
・「隣から悪口が聞こえてくる」
・「頭の中に機械が埋め込まれている」
・結論
◆初診時21歳男性の訴え
この世に異常なひとはただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。
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そのときの記事です。
(注)もっと簡単に確認する回はこちら。
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そしてそれは、この世に「理解不可能」なひとはただのひとりも存在し得ない、ということを意味するとのことでしたね。
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いちおうそのことを確認したときの記事も載せておきますね。
(注)もっと簡単に確認する回はこちら。
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だけど、医学は不当にも一部のひとたちを異常と判定し、「理解不可能」と決めつけてきました。
たとえば、あるひとたちのことを統合失調症と診断し、つぎのように「理解不可能」であると触れ回ってきました。
ほら、ちょっと確かめてみてくださいよ。
かつてクルト・コレは、精神分裂病〔引用者注:当時、統合失調症はそう呼ばれていました〕を「デルフォイの神託」にたとえた。私にとっても、分裂病は人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎であるような気がする。(略)私たちが生を生として肯定する立場を捨てることができない以上、私たちは分裂病という事態を「異常」で悲しむべきこととみなす「正常人」の立場をも捨てられないのではないだろうか(木村敏『異常の構造』講談社現代新書、1973年、p.182、ただしゴシック化は引用者による)。
木村精神科医は「永久に解くことのできぬ謎」と言っていましたね。
なら、こちらはどうですか。
専門家であっても、彼らの体験を共有することは、しばしば困難である。ただ「了解不能」で済ませてしまうこともある。いや、「了解不能」であることが、この病気の特質だとされてきたのである。何という悲劇だろう(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2010年、p.30、ただしゴシック化は引用者による)。
今回は、統合失調症と診断され、このように「理解可能」と決めつけられてきたひとたちのなかから実際にひとり登場してもらい、そのひとがほんとうは「理解可能」であることを、実地に確認してみます。
早速ですけど、つぎの男性のことをみなさんならどんなふうに想像しますか。小説を読んでいるようなつもりで、つぎの男性のことをひとつ、活き活きと思い描いてみてくれますか。
「頭の機械をとってほしい」
初診時二十一歳の男性。大学生だったときに、「隣から悪口が聞こえてくる」「頭の中に機械が埋め込まれている」と言い出し、大学病院の精神科を受診したところ、幻聴や妄想の症状から、統合失調症と診断されて半年間入院。大学は中退した。その後、しばらく落ち着いたものの、就職して半月ほどして、また幻聴が聞こえるようになり、眠れなくなった。「頭の中に埋め込まれた機械を取ってほしい」と脳外科を受診したり、隣家に怒鳴り込んでいくなどしたため、精神科の病院に入院となる。その後、就職を試みるたびに症状の悪化をきたし、同じことを言い出した。悪化すると薬を飲まなくなり、余計不安定となって、入院するということを何度も繰り返した。
しかし、四十歳を過ぎた頃から、無理に就職しようとしなくなり、それとともに、悪化をきたすことはなくなった。保健センターで行われるグループワークに定期的に参加し、老母の面倒をみながら、安定した生活を送っている(前掲書p.48、ただしゴシック化は引用者による)。
男性(以下、男子大学生さんと呼ぶことにします)は大学生の頃に「隣から悪口が聞こえてくる」「頭の中に機械が埋め込まれている」と言い出したと書いてありましたね。
そのふたつの訴えを順にいまから見ていきましょう。
2020年2月20日に文章を一部加筆修正しました。また同年同月26日に目次項目を修正しました。
2021年8月4日に文章を再度一部修正しました。
*前回の短編(短編NO.8)はこちら。
*このシリーズ(全26短編を予定)の記事一覧はこちら。