*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.8
早速はじめます。
たびたび文章を引用させてもらっている、岡田尊司精神科医の著書『統合失調症』(PHP新書、2010年)から、統合失調症と診断されたつぎの男性患者さんに登場してもらいますね。この男性患者さんがほんとうは、(精神)医学の見立てに反し、「理解可能」であることを確かめていきますよ。
家族から、よく電話で浪費を諫められている男性患者は、電話でガミガミ叱責された後で、幻聴がすると訴えた。幻聴は、「小遣いばかり使って」「お菓子ばかり食べて、あんなに太っている」と自分を非難する内容だった(同書p.95)
みなさんはこの男性患者さんのことをどのように思い描きましたか? 俺はこんなにふうに思い描きました。
男性患者さんは電話で家族に浪費を諫められたあと、ひょっとすると他のひとたちにも、「小遣いばかり使って」とか「お菓子ばかり食べて、あんなに太っている」といったふうに内心悪く思われているのではないか、と気にし出したのかもしれない、って。
だけど男性患者さんからすると、自分がそこで、そんなことを気にし出したりするはずはなかった。いや、いっそ、男性患者さんのその見立てを、すこし語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてしまいましょうか。男性患者さんにはそのとき自信があったんだ、って。自分が周りのひとたちにも内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信が、って。
家族からの電話をきっかけに、男性患者さんは、周りのひとたちにも内心悪く思われているのではないかと気にするようになった。ところが、男性患者さんには、自分がそんなことを気にしているはずはないという自信があった。で、男性患者さんはその自信に合うよう、現実をこう解した。
「小遣いばかり使って」とか「お菓子ばかり食べて、あんなに太っている」とボクを批判する声が聞こえてくる、って。
以上が、俺の思い描いたこの男性患者さん像ですよ。
2021年8月3,11,12日に文章を一部修正しました。
こういう記事に出くわしました。ご紹介がてらに。
*前回の短編(短編NO.7)はこちら。
*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。