(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「他人が身体のなかに入ってくる」を理解する(2/5)【統合失調症理解#8】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.16

「勝手に入ってくるんです」

 二十代の女性患者は、いつも自分の身に起きている不快な出来事を、早口でまくし立てた。


口の中や喉に入ってくるんです入ってきてそこで勝手に喋ってるんです胸のところにも入りこんでそこでいやらしいことをはじめるんです」。


 この女性の症状は、幻聴と他者が自分の中に侵入してくるという体感的な幻覚妄想がからまり合ったものだが、他者の侵入や蹂躙を防ぎ止めることができないという点で共通していた。


 この女性は、他者と目が合ったりすれ違ったりしただけで相手が体に取り憑いてくる侵入してくると感じ、そのため、人の中に入っていくことにも、裸の姿をじろじろ見られたり触れられたりするような苦痛を感じるのだった(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、p.98、ただしゴシック化は引用者による)。

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

 


◆推測その1(悪く思われているのではないかと気になる)

 みなさんは、ひとと接するのが得意ですか。


 俺はどちらかというと、苦手なほうですよ。


 この女性患者さん(以後、Dさんと呼びますね)はどうでしょうね? 苦手なように見えませんでした? Dさんは、ひとと目が合ったりすれ違ったりしただけでも、「なんて面してんだとかバカそうとかと思われたのではないかと気になって胸の辺りが嫌ァな気持ちでいっぱいになるのかもしれませんね。


 Dさんはひょっとすると、そんなふうに、ひとと接するとすぐ平静さを失ってしまうのかもしれませんね。


 でも、Dさんからすると、自分がそうした場面で、平静さを失ってしまったりするはずはなかった。いや、いっそ、Dさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そうしたときのDさんには、自信があるんだ、って。自分はふだんのように平然としていられているはずだという自信が、って。


 で、その自信に合うよう、Dさんは現実をこう解する、ということなのかもしれませんね。


 目が合ったり、すれ違ったりしたあと、ひとが、平然としているわたしの口や喉のなかに入ってきて勝手に「なんて面してんだ」とか「バカそう」とかと喋ったり、胸のところに入り込んできて不快なことをしはじめたりするんだ、って。


 そのようにしてDさんは、「自分が他人にコレコレこんなふうに悪く思われているのではないかと気にしている」という現実を一転、「平然としているわたしの口や喉のなかに他人が入ってきてアアダコウダと悪口を言っている」ということにし、かたや「自分が胸の辺りに不快感を覚えている」ということについても、「平然としているわたしの胸のなかに他人が入り込んできていやらしいことをしている」ということにするのかもしれませんね。


 いま、こういった推測をしましたよ。


 Dさんは、ひとと目が合ったり、すれ違ったりしただけでも、内心悪く思われたのではないかと気になって、胸の辺りが嫌ァな気持ちでいっぱいになる(現実)。だけどそのDさんには、自分はふだんどおり平然としていられているはずだという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。

  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、Dさんはその場面で、後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分は平然としていられているはずだというその自信に合うよう、現実をこう解する。


 目が合ったり、すれ違ったりしたあと、ひとが、平然としているわたしの口や喉のなかに入ってきて勝手にわたしの悪口を喋ったり、胸のところに入り込んできて不快なことをしはじめたりするんだ、って。


 くどいですけど、箇条書きにしてまとめてみますね。

  • ①ひとと接すると、内心悪く思われたのではないかと気になって、胸の辺りが嫌ァな気持ちでいっぱいになる(現実)。
  • ②自分はふだんどおり平然としていられているはずだという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解する。「さっき接したひとが、平然としているわたしの口や喉のなかに入ってきて勝手にわたしの悪口を喋ったり、胸のところに入り込んできて不快なことをしはじめたりするんだ」(現実修正解釈





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2021年9月11,12日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.15)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「他人が身体のなかに入ってくる」を理解する(1/5)【統合失調症理解#8】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.16

目次
・20代女性の訴え
・推測その1(悪く思われているのではないかと気になる)
・推測その2(ああだこうだと考えてしまう)
・推測その3(おぞましい想像をしてしまう)
・(精神)医学は差別する


◆20代女性の訴え

 この世に異常なひとなどただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。

 

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そのときの記事を一応、貼り付けておきますね。

(注)もっと簡単に確認する回はこちら。

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 そしてそれは、この世に「理解不可能なひとなどただのひとりも存在し得ないということを意味するとのことでしたね。

 

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その確認をしたときの記事も一応載せておきますよ。

(注)もっと簡単に確認する回はこちら。

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 だけど、医学は一部のひとたちを異常と判定し、「理解不可能」と決めつけて、差別してきました。


 たとえば、あるひとたちのことを統合失調症と診断し、つぎのように、やれ「永久に解くことのできぬ謎」だ、「了解不能」だと言ってきましたよね?

かつてクルト・コレは、精神分裂病〔引用者注:当時、統合失調症はそう呼ばれていました〕を「デルフォイの神託」にたとえた。私にとっても、分裂病は人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎であるような気がする。(略)私たちが生を生として肯定する立場を捨てることができない以上、私たちは分裂病という事態異常」で悲しむべきこととみなす「正常人」の立場をも捨てられないのではないだろうか(木村敏『異常の構造』講談社現代新書、1973年、p.182、ただしゴシック化は引用者による)

異常の構造 (講談社現代新書)

異常の構造 (講談社現代新書)

  • 作者:木村 敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1973/09/20
  • メディア: 新書
 

 

 専門家であっても、彼らの体験を共有することは、しばしば困難である。ただ「了解不能」で済ませてしまうこともある。いや、「了解不能であることがこの病気の特質だとされてきたのである。何という悲劇だろう(岡田尊司統合失調症、その新たなる真実』PHP新書、2010年、p.30、ただしゴシック化は引用者による)。

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

 


 最近はずっと統合失調症と診断され、このように「理解不可能」と決めつけられてきたひとに実際に登場してもらい、そのひとがほんとうは理解可能であることを実地に確認しています


 当分のあいだは、そうした確認をつづけますよ。


 今回も、ね?


 では早速いつものように、はじめます。





         (1/5) (→2/5へ進む

 

 




2021年9月11日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.15)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(6/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15


◆医学もCさんのように「現実修正解釈」をやってきた

 だって、よく考えてみてくださいよ。Cさんはただ「現実修正解釈」をしているだけということでしたよね。どうですか。みなさんも、世間のひとたちも、ふだん、しきりに「現実修正解釈」をしませんか。


 俺はしますよ。


 学問はどうですか。たとえば、医学もそうした解釈をよくしませんか。ほら、いまさっき確認しましたよね。(精神)医学が、ほんとうは「理解可能」であるCさんたちのことを、不当にも「理解不可能」であるということにして差別するいきさつを? 箇条書きにしてふり返るとこういうことでしたね?

  • ①(精神)医学には、Cさんたちのことを理解するだけの力がない(現実
  • ②にもかかわらず、(精神)医学には、(精神)医学の人間理解力は完璧であるはずだという自信がある(現実に背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、(精神)医学は現実をこう解釈する。「Cさんたちのことが(精神)医学に理解できないのは、Cさんたちが『理解不可能』だからだ」(現実修正解釈


 見ました? (精神)医学だって、こうして「現実修正解釈」を当たりまえのように、これまでずっとしてきたではありませんか。自分をしっかり反省できるひとなら誰しも、「現実修正解釈」をするCさんを見て共感するはずですよ。「ああ自分もそういう論理操作をしばしばするなあCさんとおなじだな」って。


 今回は計3回にわたり、「体感幻覚」「テレビ・ラジオ幻聴」「高校生幻聴」「車幻聴」を訴えるCさんに実際に登場してもらい、(精神)医学に統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのCさんがほんとうは「理解可能」であることを、7つの場面を挙げて確認しました。





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次回は約1ヶ月後、6月8日(月)21:00頃にお目にかかります。


2021年9月10,11日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.14)

  • part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(5/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15


◆医学がCさんを「理解不可能」と決めつけるやり方

 以上、統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたCさん本人による克明な当事者研究から、ここまで、7つの場面を見てきました。


 どの場面でもCさんが(精神)医学の見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であるということが確認できましたよね。


 実に、(精神)医学にはこれまでずっとそうしたCさんのことが理解できてきませんでした。だけど、それは単に、Cさんのことを理解するだけの力が(精神)医学にはなかったということにすぎないといま、極めてはっきりしましたね。


 ところが(精神)医学にはずっと、(精神)医学の人間理解力は完璧であるはずだという自信があったわけです。で、その自信に合うよう、(精神)医学は現実をこう解してきました。


(精神)医学にCさんのことが理解できないのは、Cさんが「理解不可能」だからだ、って。


 そして、ここまで見てきたCさんや、Cさんのようなひとたちのことをずっと、つぎのように「理解不可能」なものとして世間に説明してきました。

 薬物などの影響によらずに、幻聴が一ヶ月以上続いている場合、統合失調症の可能性がある。ことに「対話性幻聴」や、行動にいちいちコメントしてくる「注釈幻声」は、診断的価値が高く、それが認められるだけで統合失調症の可能性が高い。六ヶ月以上幻聴が続いている場合には、幻聴が完全になくなることは期待しづらい。幻聴があると、「独語」や「空笑」(一人でにやにや笑う行為)が起こりやすい。幻聴に向かって答えたり、怒鳴ったりすることもある。


 幻聴以外の幻覚症状では、体に痛みや侵入されているような感覚を感じる体感幻覚が多い。頻度は少ないが、幻視や幻嗅もある。


 純粋に幻覚症状だけがみられる場合もあるが、幻覚症状が妄想とセットになっている場合が多い。被害妄想に囚われている患者は、悪口や陰口が聞こえてきたり、頭に「レーザー光線を当てられた」と痛みを知覚したりする。性的な被害妄想に苦しむ女性は、夜な夜な体を触られたり、中に入られたりするような感覚を訴える(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、pp.93-94、ただしゴシック化は引用者による)。

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

 


 果して、みなさん、こんな説明が許されると思いますか。こんな説明をしたのではまるで、Cさんたちのことを妖怪みたいな、根本的にみなさんとは異質な何かだと言っているようなものではありませんか。こんな説明を聞くと、世間の多くのひとたちはきっと誤解しますよ。「ああ、Cさんのようなひとたちは、私たちとはまるっきり別の人間なんだな。理解しようとしたって無駄なんだな」って。


 けど、Cさんは決してそんな異質な人間なんかではありませんでしたよね。これまでの考察をとおして、実にみなさん、こう感じてきたのではありませんか。「Cさんと私は、たしかに違いはあるものの、実によく似ている」って。


 みなさんCさんに共感を覚えどおしだったのではありませんか。





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2021年9月10日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.14)

  • part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(4/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15


◆場面7:車幻聴

[パターン④]車幻聴

 自動車からエンジン音に合わせてひき殺してやる」「うちの車の製品をバカにしやがってなどと聞こえてきて追っかけてくる〔引用者注:「仲間がほしいときにこの幻聴が始まる」との記載が欄外にあります〕。


対処方法▶車には喧嘩は売れないので、おびえて自転車でひたすら逃げる。


結果▶何百キロも離れた場所に行ってしまうので、迎えにくる仲間に迷惑をかける(浦河べてるの家べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.116-122、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 みなさん、自転車に乗っているとき、車が怖くなること、ありませんか。自転車で、信号機の設置されていない十字路を横断するときや、路肩の設けられていない細い道を走るとき、いまにも車にひかれるんじゃないかとヒヤヒヤすること、ありませんか。


 ひょっとするとCさんにも、自転車に乗っているとき、そんなふうに、「いまにも車にひかれるんじゃないかと心配になることがあるのかもしれませんね。そして、仲間に会うために、大丈夫だと思って自転車に乗って出発したものの傍らを通りすぎる車の勢いが予想してたのより凄まじく、「自分は車をあまく見過ぎていたのではないかと後悔の念に駆られるといったことがあるのかもしれませんね。


 しかしCさんにしてみれば、そうした場面で自分が、「いまにも車にひかれるんじゃないか」と心配したり、自転車で出発したことを後悔したりするはずはなかった。いや、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、いっそ、こう言い換えてしまいましょう。そのときCさんには自信があるんだ、って。自分がいまにも車にひかれるんじゃないか」と心配したり自転車で出発したことを後悔したりしているはずはないという自信が、って。


 Cさんは「いまにも車にひかれるんじゃないか」と心配になり、「車をあまく見過ぎていたのではないか」と後悔の念に駆られている(現実)。ところが、そのCさんには、自分がそうした心配や後悔をしているはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、やはり俺には思われて仕方がありません。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。

    B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、Cさんはこの場面でも、後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が「いまにも車にひかれるんじゃないか」と心配したり、自転車で出発したことを後悔したりしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解する。


 車が「いまにもひき殺してやる」と脅してきたり、「車をあまく見てたな(うちの製品をバカにしやがって)」と怒鳴ってきたりするのが聞こえる、って。


 つまり、そうした解釈をしてCさんは、車にひかれるのではと心配しているということを、車にいまにも殺してやると脅されているということに、また、車をあまく見ていたのではないかと後悔しているということを、車にあまく見てたなと因縁をつけられているということに、それぞれするのかもしれませんね*1


 いま言ったことを箇条書きでまとめるとこうなります。

  • ①「いまにも車にひかれるんじゃないか」と心配になり、「自分は車をあまく見ていたのではないか」と自転車で出発したことを後悔する(現実
  • ②自分がそうした心配や後悔をしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「車が、いまにもひき殺してやる、と脅してきたり、車をあまく見てたなと怒鳴ってきたりするのが聞こえる」(現実修正解釈


 さあ、ここまで立てつづけに、「高校生幻聴」「テレビ・ラジオ幻聴」「仲間幻聴」「車幻聴」の4つを見てきました。その4つのうちのどれでもCさんがしていたことはおなじでしたね。どの場面でもCさんは、前々回と前回の短編で見たのとおなじように、「現実修正解釈」をしていました。そのようにCさんが現実修正解釈をしているのだとわかると、Cさんのそれら「高校生幻聴」「テレビラジオ幻聴」「仲間幻聴」「車幻聴、(精神)医学の見立てに反し、一転、「理解可能なものと見えてきましたよね?


 もちろん、それら4場面でのCさんをいま、完璧に理解し得たと言うつもりは俺にはサラサラありませんよ。むしろCさんのことを多々誤ったふうに決めつけてしまったのではないかと気が咎め、正直な話、ガックリ俯いているところですよ。


 でも、そうは言ってもさすがに、十分明らかになりましたよね? その4場面でのCさんが理解可能であるということは? みなさんのように人間理解力が申し分なくあるひとたちになら、それらの場面でのCさんのことが完璧に理解できるにちがいないということは、ね?





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2020年5月19日に5文字追加しました。2021年9月10,11日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.14)

  • part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

*1:2020年6月8日にこの一文の構造を、意味はそのままに、変更しました。

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(3/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15


◆場面6:仲間幻聴

[パターン③]仲間幻聴

 デイケアのなかにいるとすれ違いざまに意味深なことを言ってきたりまわりでひそひそと悪口の噂をしてくる


対処方法▶幻聴の送り主に向かって爆発する。


結果▶相手がキレて怒鳴り返してくる(浦河べてるの家べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、p.122、ただしゴシック化は引用者による)。


 Cさんはデイケアにいるときしばしば気になるのかもしれませんね。デイケアの仲間たちに内心悪く思われているのではないか、って(現実)。道ですれ違うとき、下校途中の高校生たちに内心悪く思われているのではないかと気になるのとおなじように、ね? あるいは中学生の頃、久しぶりに登校した学校の教室のなかで、同級生たちに内心、「早く死んじゃえばいいのに」と思われているのではないかと気になったみたいに、ね?

 

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Cさんの、同級生たちに内心「早く死んじゃえばいいのに」と思われているのではないかと気になった場面はこちら。

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 ところがCさんにしてみると、自分がデイケアのそうした場面で、仲間たちに内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれないことを怖れながらも、こう言い換えてみることにしましょうか。Cさんには、気にしているはずはないという自信があるんだ、って。自分が仲間たちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信が、って。


 このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかではないかと、俺には思われてなりません。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。

    B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、デイケアのこの場面でもCさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解する。


 デイケアの仲間がすれ違いざま意味深なことを言ってくるのが聞こえたり、まわりでひそひそとボクの悪口の噂をしているのが耳に入ってきたりする、って。


 まとめます。

  • デイケアの仲間たちに内心悪く思われているのではないかと気になる(現実
  • ②そうしたことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解する。「デイケアの仲間たちがすれ違いざま意味深なことを言ってくるのが聞こえたり、まわりでひそひそとボクの悪口の噂をしているのが耳に入ってきたりする」(現実修正解釈





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2021年9月10日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.14)

  • part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(2/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15


◆場面5:テレビ・ラジオ幻聴

[パターン②]テレビ・ラジオ幻聴

 テレビのコマーシャルでこの犬!」と言われたり犬のダイエット食品を勧めてきたりする。ほかにも自分に関する多種多様な情報が流れてくる。


対処方法▶テレビがおかしくなったと思い、家族に相談する。


結果▶医師に「この子頭おかしいですから、薬を増やしてください」と家族が頼んで、しばらく外に出さないようにさせられる。家族はCがおかしくなったと思い、喧嘩が始まる(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.121-122、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 ひょっとするとCさんは犬のダイエット食品のCMを見ているときその味が気になるのかもしれませんね。みなさんもそうしたCMを見て、犬の食品の味が気になったこと、ありませんか。だって、映っている食品、とても美味しそうに見えません? 味が気になっても何らおかしなことはないと俺は思いますけど、みなさん、どうですか? 


 Cさんは犬のダイエット食品のCMを見て、その味が気になる(現実)。ところがCさんからすると、自分がそこで、犬の食品の味を気にしたりするはずはなかったのかもしれませんね。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えることにしましょうか。そのCMを見ているときCさんには、「自信」があるんだ、って。自分が犬の食品の味なんかを気にしているはずはないという自信が、って。


 このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、その場面でもCさんは、後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が犬の食品の味なんかを気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解する。


 テレビCMが僕を犬扱いし、犬のダイエット食品を勧めてくる、って。


 そのような解釈をしてCさんは、「犬のダイエット食品に惹かれている」という現実を、「CMが犬のダイエット食品を押しつけてくる」ととってしまうということなのかもしれませんね。


 箇条書きでまとめるとこうなります。

  • ①犬のダイエット食品のCMを見て、その味が気になる(現実
  • ②犬のダイエット食品の味なんかを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「CMが僕に犬のダイエット食品を勧めてくる」(現実修正解釈





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2021年9月7日に文章を一部修正しました。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

  • part.1(短編NO.14)

  • part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。