*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.15
◆医学がCさんを「理解不可能」と決めつけるやり方
以上、統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたCさん本人による克明な当事者研究から、ここまで、7つの場面を見てきました。
どの場面でもCさんが(精神)医学の見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であるということが確認できましたよね。
実に、(精神)医学にはこれまでずっとそうしたCさんのことが理解できてきませんでした。だけど、それは単に、Cさんのことを理解するだけの力が(精神)医学にはなかったということにすぎないといま、極めてはっきりしましたね。
ところが(精神)医学にはずっと、(精神)医学の人間理解力は完璧であるはずだという自信があったわけです。で、その自信に合うよう、(精神)医学は現実をこう解してきました。
(精神)医学にCさんのことが理解できないのは、Cさんが「理解不可能」だからだ、って。
そして、ここまで見てきたCさんや、Cさんのようなひとたちのことをずっと、つぎのように「理解不可能」なものとして世間に説明してきました。
薬物などの影響によらずに、幻聴が一ヶ月以上続いている場合、統合失調症の可能性がある。ことに「対話性幻聴」や、行動にいちいちコメントしてくる「注釈幻声」は、診断的価値が高く、それが認められるだけで統合失調症の可能性が高い。六ヶ月以上幻聴が続いている場合には、幻聴が完全になくなることは期待しづらい。幻聴があると、「独語」や「空笑」(一人でにやにや笑う行為)が起こりやすい。幻聴に向かって答えたり、怒鳴ったりすることもある。
幻聴以外の幻覚症状では、体に痛みや侵入されているような感覚を感じる体感幻覚が多い。頻度は少ないが、幻視や幻嗅もある。
純粋に幻覚症状だけがみられる場合もあるが、幻覚症状が妄想とセットになっている場合が多い。被害妄想に囚われている患者は、悪口や陰口が聞こえてきたり、頭に「レーザー光線を当てられた」と痛みを知覚したりする。性的な被害妄想に苦しむ女性は、夜な夜な体を触られたり、中に入られたりするような感覚を訴える(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2010年、pp.93-94、ただしゴシック化は引用者による)。
果して、みなさん、こんな説明が許されると思いますか。こんな説明をしたのではまるで、Cさんたちのことを妖怪みたいな、根本的にみなさんとは異質な何かだと言っているようなものではありませんか。こんな説明を聞くと、世間の多くのひとたちはきっと誤解しますよ。「ああ、Cさんのようなひとたちは、私たちとはまるっきり別の人間なんだな。理解しようとしたって無駄なんだな」って。
けど、Cさんは決してそんな異質な人間なんかではありませんでしたよね。これまでの考察をとおして、実にみなさん、こう感じてきたのではありませんか。「Cさんと私は、たしかに違いはあるものの、実によく似ている」って。
みなさん、Cさんに共感を覚えどおしだったのではありませんか。
2021年9月10日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/6)はこちら。
*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。
- part.1(短編NO.14)
- part.2(短編NO.15)
*このシリーズ(全26短編を予定)の記事一覧はこちら。