(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「下校途中の高校生に、働かないで何してんだ、あいつは変態だとバカにされる」「テレビCMに犬の食品を勧められる」「車からエンジン音に合わせ、殺してやる、うちの製品をバカにしやがって、という声が聞こえ、追いかけられる」を理解する(1/6)【統合失調症理解#7-part.3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.15

目次
・場面4:高校生幻聴
・場面5:テレビ・ラジオ幻聴
・場面6:仲間幻聴
・場面7:車幻聴
・医学がCさんを「理解不可能」と決めつけるやり方
・医学もCさんのように「現実修正解釈」をやってきた


◆場面4:高校生幻聴

理解不可能なひとなどこの世にただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。だけど(精神)医学は、一部のひとたちを不当にも「理解不可能」と決めつけ、差別してきました。


 統合失調症と診断され、そのように差別されてきたCさんに、現在、登場してもらっています。そして、そのCさんがほんとうは理解可能であるということを、7つの場面をもちいて確認しようとしています


 ここまでそのなかから、場面を3つ見てきました。ひとつは「Cさん中学生時代の場面」、残りふたつは「Cさん現在の寝起き場面」でした。

 

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参考1:Cさん中学生時代の場面

参考2:Cさん現在の寝起き場面

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 それら3場面を見てきたのとおなじ要領で、いまから、引用のつづきをさらに追っていきますよ。今回は最後の4場面をつづけざまに見ていきます。

 体感幻覚だけではなく、Cを悩ます症状に幻聴さんがある。体験幻覚と幻聴さんは、苦労の両輪となってやってくる。そこで体験幻覚のチェックと同様に、Cにどのような幻聴さんが影響を与えているのかを調査した。(略)


[パターン①]高校生幻聴

 下校の途中に働かないで何してんだ」「あいつは変態だみたいにバカにしてくる


対処方法▶高校生に向かってにらむ、怒鳴る、喧嘩を売る。


結果▶かえって関係が険悪になって傷口をひろげる(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、p.121、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 下校途中の高校生と道ですれ違うときCさんは高校生に内心、「働かないで何してんだとかあいつは変態だとかと思われているのではないかと気になるのかもしれませんね。


 だけどCさんからすると、その場面で自分が、そんなことを気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのときCさんには、気にしているはずがないという自信があるんだ、って。自分が高校生に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信が、って。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解する。


 道ですれ違いざま、下校途中の高校生が「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと言ってくるのが聞こえる、って。


 そこでCさんは「高校生に向かってにらむ、怒鳴る、喧嘩を売る」。


 いまこう推測しました。


 高校生とすれ違うとき、Cさんは、高校生に「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと内心悪く思われているのではないかと気になる(現実)。しかしそのCさんには、自分が、高校生に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかではないかと依然、俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、その場面でCさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。すなわち、自分が気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解する。


 道ですれ違いざま、下校途中の高校生が「働かないで何してんだ」とか「あいつは変態だ」とかと言ってくるのが聞こえる。


 いまの推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。

  • ①高校生とすれ違うとき、高校生に内心悪く思われているのではないかと気になる(現実)。
  • ②そんなことを気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「すれ違いざま、高校生が悪口を言ってくるのが聞こえる」(現実修正解釈





         (1/6) (→2/6へ進む

 

 

 

 

 

2021年9月7,10日に文章を一部修正しました。


*このCさんシリーズはpart.1,2,3でお届けしています(今回はpart.3)。

part.1(短編NO.14)

part.2(短編NO.15)


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「朝鏡を見ると、顔や身体の他の部分に女性の名や悪口などが描かれている」を理解する(2/2)【統合失調症理解#7-part.2】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.14


◆場面3:朝起きたら身体中に落書きされている

 さらにつづきを見ていきます。

[体感幻覚②]朝起きて鏡を見ると顔に文字が書かれていた、の巻き

 朝起きて顔を洗うときに鏡を見たら両方のほっぺたや額にデイケアに通う女性メンバーの名前が不気味に白く浮かび上がり、〝バカ!〟〝死ね!〟という文字や変な模様が足に描かれていることがよくある


✖️これまでの対処方法

 夜寝ているあいだに誰かが忍び込んで自分の顔に落書きをしているのではないかと思いデイケアメンバーを疑惑の眼差し鋭い視線で見ていた


新たな対処法

 この手の仕業をする体感幻覚に、「C専属メイクさん」、その名も〈いくめさん〉と命名した(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、p.118、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 朝起きると身体のどこかに痛みがあるということから、夜寝ているあいだに、誰かに身体を痛めつけられているのではないかと疑心暗鬼になっているCさんは、洗面所で鏡に映っている自分を見ているときにしばしば心配になるのかもしれませんね。あれ、ひょっとして、いま鏡に映っているボクのほっぺたに女性メンバーの名前がうっすらとイタズラ書きされているんじゃないか。あれ、いまちらっと鏡に映ったボクのお腹に、「死ね」って書いてあったんじゃないか、って。


 でも、Cさんからすると、自分がそこでそんな繊細な心配をしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。Cさんには、自分がそんな心配をしているはずはないという自信があるんだ、って。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解する、ということなのかもしれませんね。


 朝、鏡に映った自分を見ていると、身体のそこここに、女性メンバーの名前や、「バカ!」「死ね!」といった文字、あるいは変な模様が、白く浮かび上がってくる、って。


 さて、いまの場面でも、先ほどとおなじく、「現実自信とが背反していました。こういうことでした。


 疑心暗鬼になっているCさんは朝、鏡に映った自分を見ているとき、心配になる(現実)。あれ、鏡に映っているボクのほっぺに、女性メンバーの名前がうっすらとイタズラ書きされているのではないか? あれ、いまちらっと鏡に映ったボクのお腹に「死ね」と書かれてはいなかったか、って。ところが、そのCさんには、自分がそんな心配をしているはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう修正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、ここでもCさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとる。自分が、落書きされているのではないかと心配しているはずはない、とするその「自信」に合うよう、現実をこう解する。


 朝、鏡に映った自分を見ていると、身体のそこここに、女性メンバーの名前や、「バカ!」「死ね!」といった文字、あるいは変な模様が、白く浮かび上がってくる、って。


 ここも、くどいかもしれませんけど、箇条書きにしてまとめてみます。

  • ①朝、鏡に映った自分のほっぺやお腹を見て、実はそこに落書きされているのではないかと心配になる(現実)。
  • ②そんな心配をしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「鏡に映ったボクのほっぺやお腹に女性メンバーの名前や、『バカ!』『死ね!』といった文字、あるいは変な模様が、白く浮かび上がってくる」(現実修正解釈


 以上、今回はCさんの寝起き場面をふたつ見ました。


 どうでした? そのふたつの場面でのCさんは、(精神)医学が言うように、ほんとうに「理解不可能」だとみなさん思いました?


 いや、反対に、「理解可能であると確信したのではありませんか?


 もちろん、いまの考察でCさんのことを完璧に理解し得たとは、俺自身まったく思いませんよ。むしろ正直な話、多々誤ったふうにCさんのことを決めつけてしまったのではないかと、しきりに気が咎めているくらいですよ。


 でも、このふたつの場面でのCさんが、(精神)医学の見立てに反しほんとうは理解可能であるということは、いまの考察からでも十分明らかになったのではないでしょうか。申し分のない人間理解力をもったみなさんになら、このふたつの場面でのCさんのことが完璧に理解できるにちがいないと、ハッキリしたのではないでしょうか。


 この要領で、次回、最後の4場面を、つづけざまに見ていきます。





1/2に戻る←) (2/2) (→次回短編にづづく

 

 




2020年5月12日に、内容はそのままに文章を一部修正しました。2021年9月6,7,9,10日に文章を修正しました。


*前回の短編(短編NO.13)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「朝鏡を見ると、顔や身体の他の部分に女性の名や悪口などが描かれている」を理解する(1/2)【統合失調症理解#7-part.2】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.14

目次
・場面2:朝起きたら身体中が痛い
・場面3:朝起きたら身体中に落書きされている


◆場面2:朝起きたら身体中が痛い

理解不可能なひとなどこの世にただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。だけど(精神)医学は、一部のひとたちを不当にも「理解不可能」と決めつけ、差別してきました。


 そこでそのことを実地に確認するために、前回統合失調症と診断され、そのように差別されてきたCさんに登場してもらいCさん本人が挙げてくれる7つの場面を見てみることにしました

 

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前回の記事

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 前回は、その7場面のうち、最初のひとつ目だけを見ましたよね。Cさん中学生時代の場面でしたね。そのときの要領で、いまから、前回の引用のつづきを追っていきます(前回同様、引用文中に出てくる氏名も、Cと改めさせてもらいますね)。今回は場面をふたつ、とり挙げますよ。

 体感幻覚ボディマップに書き出された症状のなかでも、注目すべき二つの症状への対処方法について仲間やデイケアスタッフと検討した。二つの症状とは、「朝起きたら体中が痛い」という症状と、「朝起きて鏡を見ると顔に文字が書かれていた」という症状である。(略)


[体感幻覚①]朝起きたら体中が痛い、の巻き

 朝起きるとふくらはぎや首や骨盤のまわりに痛みが走る歯茎がグラグラする


✖️これまでの対処方法

 なぜ痛みがくるのかわからずひたすら首をかしげていた原因がわからないので住居の人を疑ったり家に仕掛けがあるんじゃないかと家中調べたりした


新たな対処法

 この手の仕業をする体感幻覚に「C専属整体師さん」、その名も〈タスケ〉と命名した。整体師のくせにプロレスが好きでたまに技をかけるので、プロレスラーの〝サスケ〟にちなんで、でもたまに助けてくれることもあるので、〝タスケ〟とした(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.116-117、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 朝起きると、首や足のつけ根が痛かったり(後者はつい最近、俺の身に起こったことです)、腰が痛かったり、ぐったりしていたり、手がしびれていたり、無感覚になっていたりするというのは、誰にだって経験のあることではないでしょうか。実にCさんにもそうしたことが時々あるのかもしれませんね。


 でもCさんからすると、自分の身にそうしたことが起こったりするはずはない、のではないでしょうか。いや、いっそ、Cさんのその見立てを、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。Cさんには自信があるんだ、って。朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという自信が、って。


 
で、そんなCさんは「なぜそうした痛みがくるのかわからずひたすら首をかしげ」ることになるのかもしれませんね。


 そして、家の誰かが、夜寝ているあいだにイタズラをしたのだろうかとか、家に何か仕掛けがあるのだろうかと考えることになるのかもしれませんね。そういったイタズラもしくは仕掛けがあるということでもなければ説明がつかない、とCさんには思われるということなのかもしれませんね。


 いま、こう推測しましたよ。


 朝起きると、身体に痛みがある(現実)。ところがそのCさんには、朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、前回も言いましたように、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 では、もしそこでCさんが、前者Aの「自信のほうを訂正する」手をとっていたら、事はどうなっていたか、ひとつ考えてみましょうか。もしとっていたら、Cさんは、こんなふうに自信を改めることになっていたかもしれませんね。


 朝起きると身体のどこかに痛みがあるといったようなことは現にあることなんだな。へー、意外だったな、勉強になった、って。


 でもそこでCさんが実際にとるのは、後者Bの「現実のほうを修正する」手であるわけです。Cさんは、朝起きたときに自分の身体に痛みがあるはずはないという自信に合うよう、現実をこう解する。


 夜寝ているあいだに誰かにイタズラをされたのではないか、いや、それとも、家に何か仕掛けでもあるのか。そういうことでもなければ、僕の身体が痛んでいるはずはない、って。


 先に進むまえに、いまの推測を箇条書きにしてまとめておきますね。こういうことでした。

  • ①朝起きると、身体に痛みがある(現実)。
  • ②朝起きたときに身体に痛みがあるはずはないという自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「夜寝ているあいだに、誰かがイタズラをしたのではないか。それとも、家に何か仕掛けでもあるのか。そういうことでもなければ、僕の身体が痛んでいるはずはない」(現実修正解釈





         (1/2) (→2/2へ進む

 

 




2020年5月12日に5文字追加しました。また2021年9月6,7,9日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.13)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「自分しか知らないはずのことをみんなが何故か知っている」「幻聴が同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと言ってくる」「夜になると近所から悪口が聞こえる」を理解する(4/4)【統合失調症理解#7-part.1】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.13


 さて、ここまで、こう指摘してきました。Cさんはしきりに「現実修正解釈」をしていたのではないか、って。だけど、Cさんのことを批判しようとしてそんな指摘をしてきたのではありませんよ。いや、批判だなんてめっそうもないことですよ。Cさんを批判しようというつもりは、当たりまえですけど、ここにはまったくありません。ただ、統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのCさんが、(精神)医学のそうした見立てに反し、ほんとうは理解可能であることを示したい一心で、そんな指摘をしてきたまでですよ。


 だいたい、「現実修正解釈」をすることなく、日々生活しているひとなどこの世に誰かひとりでも存在するとみなさん思います? みなさんだって、世間のひとたちだって、俺だって、程度の差はあれ、そうした「現実修正解釈」をしょっちゅうするではありませんか。Cさんのことを、「現実修正解釈」をしていることをもって批判することのできるひとなんて、ただのひとりもいやしませんよね?


 以上、今回は、中学生のころのCさんを見ました。(精神)医学はそうしたCさんのことを、すでに幻聴を聞くようになっていると言って、「理解不可能」と決めつけ、統合失調症と診断してきたにちがいありませんね。でも、どうでした? 今回のCさんは理解不可能なんかではありませんでしたよね?


 もちろん、いまの考察でCさんのことを完璧に理解し得たとは、俺自身つゆ思いませんよ。むしろ申し訳ないことに、多々誤解してしまったのではないかとひどく気に病んでいるというのが正直なところですよ。でも、そうは言ってもさすがに、今回見たCさんがほんとうは理解可能であるということは、いまの考察からでも十分明らかになったのではありませんか? みなさんのように申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、そのCさんのことが完璧に理解できるということは、いま十分に示せたのではありませんか?


 ひきつづき、Cさんが(精神)医学の見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であるということを、残りふたつの短編で、実地に確認していきます。

 

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その残りふたつの短編はこちら。

  • part.2(短編NO.14)

  • part.3(短編NO.15)

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3/4に戻る←) (4/4) (→次回短編につづく

 

 




2021年9月3,4,5日に文章を一部修正しました。


次回は来週、5月11日(月)21:00頃にお目にかかります。Stay safe! Stay home!


*今回の最初の記事(1/4)はこちら。


*前回の短編(短編NO.12)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「自分しか知らないはずのことをみんなが何故か知っている」「幻聴が同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと言ってくる」「夜になると近所から悪口が聞こえる」を理解する(3/4)【統合失調症理解#7-part.1】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.13


◆同級生、家族、近所からの悪口

「だから学校へはだんだんと行けなくなった。(略)なんとか学校へ行っても、幻聴さんが同級生の声で『早く死んじゃえばいいのに』と意地悪なことを言ってきた」。


 頑張って久しぶりに学校へ行き、教室のなかにぽつんと座っていたCさんは、同級生たちに早く死んじゃえばいいのにと思われているのではないかと気になって針のむしろにいるようだったのかもしれませんね(現実)。


 ところがCさんからすると、その場面で自分が、同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのときCさんには、自分が同級生たちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、Cさんはその自信に合うよう、現実をこう解した。


 同級生の『早く死んじゃえばいいのに』という声が聞こえてくる、って。


 さらにその頃Cさんは、家族にも「なんだアイツは学校にも行かずに」とか「いつも寝てばっかりでダメな奴だ」といったふうに内心悪く思われているのでないかと気にするようになっていたのかもしれませんね(現実)。


 ところが、Cさんからすると、そうした場面で自分が、家族に内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。つまり、先ほど同様、少々語弊があるかもしれないことを恐れながらも、Cさんのその見立てを言い換えると、そのときCさんには、自分が家族に内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があった。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解した。


 ボクの悪口を言っている家族の声が聞こえてくる、って。


 実際、「家族にも『言いたいことがあったら面と向かって言え!』と怒鳴ることが多くなっていた」と書いてありましたよね。それは、家族が面と向かわず、遠くから「声」で何かを言ってきているとCさんが解していたということの証拠ではありませんか。


 いま続けざまに2件見てきたその要領で、最後、3件目に行きましょう。


 みなさん、学校や職場、街中などで人中にいるときよりも、部屋にひとりきりでいるときのほうが、逆に社会がヒシヒシと感じられてくるといったようなこと、ありませんか。その頃、部屋に籠もっていたCさんには、社会のなかにいる自分の身がヒシヒシと思いやられ、近所のひとたちに「あの子、学校にも行かないで何?」とか「将来のこと、どう考えているのかしら」といったふうに悪く思われているのではないかとしきりに気になったのかもしれませんね(現実)。


 でも、Cさんからすると、そこで自分が、近所のひとたちに内心悪く思われているのではないかと気にしたりするはずはなかった。いや、いっそ、Cさんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、先ほど同様、こう言い換えてしまいましょうか。そのときCさんには、自分が近所のひとたちに内心悪く思われているのではないかと気にしているはずはない、という自信があったんだ、って。


 で、その自信に合うよう、Cさんは現実をこう解した。


 近所のひとたちの、ボクを悪く言う声が聞こえてくる、って。


 そしてそんなCさんは「夜になると近所から自分の悪口が聞こえたので、そのころ聞きはじめたポップス音楽をガンガンかけた」。


 さあ、いま、立てつづけに3件見てきました。でも、Cさんの身に起こっていたと思われることはどの場面でもおなじでしたね。まず、「現実自信とが背反していました。そのように「現実」と「自信」が背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、さっきも言いましたが、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう修正する。


 で、Cさんはその都度後者Bの現実のほうを修正する手をとっていましたね。


 結果、ひと(同級生、家族、近所のひとたち)の、ボクを悪く言う声が聞こえてくると解することになったのではないか、ということでしたね。


 箇条書きにするとこうなります。

  • ①ひと(同級生、親、近所のひとたち)に悪く思われているのではないかと気になる(現実)。
  • ②ひとに悪く思われているのではないかと気にしているはずはないという自信がある(現実に背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「ひとの、ボクを悪く言う声が聞こえてくる」(現実修正解釈





2/4に戻る←) (3/4) (→4/4へ進む

 

 




2021年9月3,4,5,6日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/4)はこちら。


*前回の短編(短編NO.12)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「自分しか知らないはずのことをみんなが何故か知っている」「幻聴が同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと言ってくる」「夜になると近所から悪口が聞こえる」を理解する(2/4)【統合失調症理解#7-part.1】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.13


 では、いまから、Cさんが報告してくれる場面を7つに分け、part.1、part.2part.3の3短編を通して見ていくことにします。


 今回(part.1)は、つぎのひとつ目の場面だけを見ますよ。

 C〔引用者注:本文にはお名前が出てきますが、ここでは伏せさせてもらいます〕の自己病名は、「統合失調症・体感幻覚暴走型」である。本稿の表題にもあるように、体中を暴走する体感幻覚は「もう誰にも止められない!」というのが実感である。


 Cが浦河に最初に訪れたのは、二〇〇〇年の三月だった。精神科への入退院と家の中で暴れることを繰り返す生活に、とことん行きづまっていた。不安はあったが親の勧めで浦河行きを決め、二〇〇二年一〇月からは親と離れて浦河で暮らすようになった。(略)


 Cは長いあいだ、暴走する体感幻覚に引きずりまわされてきたが、最近少しずつその判別ができるようになり、起きる出来事に前よりは冷静に対処できるようになってきた。そこで、当事者研究に挑戦してみようということになった。(略)


 研究の目的は、ずばり、長いあいだCを苦しめてきた暴走型の体験(原文ママ)幻覚と幻聴を解明し、それらとの「つきあい方」を編み出すことである。(略)


 この研究で最初におこなったのは「体感幻覚のボディマップ」の作成である。身体に起きる違和感を、爆発ミーティングの仲間やスタッフと一緒に洗い出す作業から始まった。その結果できあがったのが、一一四頁の[★1]〔引用者注:割愛します。各位、本を買って確認してみてください〕である。


 Cの頭から足先まで、全身に不気味な出来事が起きる。その不気味な出来事に、彼をからかう幻聴さんが混ざり合って、混乱が始まる。Cは当然のように、「この身体の変調も誰かの仕業にちがいない」という気持ちになってしまう。


 Cが、こんな多彩な症状を話すと、みんなは心底驚いた。「Cくん、こんな症状を抱えて、いままでよくやってきたね」と。そして、いままでのつらさをねぎらう言葉が相次いだ。


 Cの身体に異変が生じたのは、一九九五年、中学二年生で一四歳のときだった。そのころはすでに不登校も始まっていた。人の話し声がやけに気になりはじめ自分しか知らないことをみんなが知っていることに不安を感じていた。そして、人の話していることはみな、自分を悪く言っているような気がした。


 だから学校へはだんだんと行けなくなった。親にはとにかく学校に行けと言われたが、無理をして学校へ行っても、けっきょく一時間ぐらいで帰ることもめずらしくなかった。なんとか学校へ行っても、幻聴さんが同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと意地悪なことを言ってきたからだ。


 家族にも言いたいことがあったら面と向かって言え!」と怒鳴ることが多くなっていた。担任の先生が家庭訪問にも来てくれたが、Cは昼間から寝たきり状態だった。


 夜になると近所から自分の悪口が聞こえたので、そのころ聞きはじめたポップス音楽をガンガンかけた。家族も眠るどころではない。当然のように、親は二階に上がってきて「夜だから寝ろ!」と言ったが、そのころから反抗が始まった。部屋の壁にパンチを浴びせるようになった。苦しくなると壁を叩いて気をまぎらわした。(略)


 あらゆる手を尽くした末に浦河にたどり着き、家族と離れてひとり暮らしに挑戦したのが二〇〇二年の一〇月だった(『浦河べてるの家の「当事者研究」』医学書院、2005年、pp.110-115、ただしゴシック化は引用者による)。

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

べてるの家の「当事者研究」 (シリーズ ケアをひらく)

 


 ここまで、みなさんはCさんのことをどのように思い描きましたか。


 俺はこんなふうに思い描きました。


◆自分しか知らないことをみんなが知っている

 こう書いてありましたよね。「Cの身体に異変が生じたのは、一九九五年、中学二年生で一四歳のときだった。そのころはすでに不登校も始まっていた。人の話し声がやけに気になりはじめ、自分しか知らないことをみんなが知っていることに不安を感じていた。そして、人の話していることはみな、自分を悪く言っているような気がした」って。


 これはいったいどういうことだったのでしょうね。


 たとえばみなさんがいま中学生で、あるとき、芳しくない点数をテストでとったと仮定してみましょうか。で、同級生たちに劣等感を覚えるようになったと想像してみましょうか。


 でも、みなさんからすると、そこで自分が、同級生たちに劣等感を覚えたりするはずはなかった。つまり、こう言い換えると少々語弊があるかもしれませんけど、みなさんにはそのとき、こうした自信があった、と想定してみてくれますか。すなわち、自分が同級生たちに劣等感を覚えているはずはないという自信があったんだ、って。


 で、その自信に合うよう、みなさんは現実をこう解した。


 同級生たちの、「お前よりオレたちのほうが頭がいい」と言う声がしきりに聞こえてくる、って。


 だけど、みなさんのテストの点数が悪かったことは、同級生たちの知るはずのないところでした。そこでみなさんは不安に思うわけです。同級生たちが、僕しか知らないはずのこと(テストの点数が悪かったこと)をなぜか知っている、って。


 いま、こういう仮定の場面をみなさんに想像してもらいましたよ。みなさんはあるときテストで芳しくない点数をとって、同級生たちに劣等感を覚えるようになった(現実)。しかしそのみなさんには、自分が同級生たちに劣等感を覚えているはずはないという「自信」があった。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように俺には思われます。

  • A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう訂正する。
  • B.その背反を解消するために、「現実のほうを、「自信」に合うよう修正する


 で、みなさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとった。自分が同級生たちに劣等感を覚えているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解した。


 同級生たちの、「お前よりオレたちのほうが頭がいい」と言う声がしきりに聞こえてくる、って。


 その結果、みなさんは、自分のテストの点数が悪かったことをどうして同級生たちは知っているのだろうと不安を感じることになった、ということでしたね。


 いま想像してもらった場面をくどいですが、箇条書きでまとめるとこうなります。

  • ①テストの点数が芳しくなく、同級生たちに劣等感を覚えるようになった(現実)。
  • ②自分が同級生たちに劣等感を覚えているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「同級生たちの、『お前よりオレたちのほうが頭がいい』と言う声がしきりに聞こえてくる」(現実修正解釈


 Cさんは中学生二年生のころ、「人の話し声がやけに気になりはじめ、自分しか知らないことをみんなが知っていることに不安を感じていた」とのことでしたけど、ひょっとするとCさんにも、いまみなさんに想定してもらったようなことが起こっていたのかもしれませんね。


 では、その後、Cさんはどうなったか。こう書いてありました。立てつづけに3件、一気に見ていきます。





1/4に戻る←) (2/4) (→3/4へ進む

 

 




2021年9月3,4,5日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.12)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。

 

統合失調症の「自分しか知らないはずのことをみんなが何故か知っている」「幻聴が同級生の声で早く死んじゃえばいいのにと言ってくる」「夜になると近所から悪口が聞こえる」を理解する(1/4)【統合失調症理解#7-part.1】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.13

目次
・場面1:中学生時代(幻聴)
・自分しか知らないことをみんなが知っている
・同級生、家族、近所からの悪口


◆場面1:中学生時代(幻聴)

 この世に異常なひとなどただのひとりも存在し得ないということを以前、論理的に証明しましたよね。

 

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そのときの記事をいちおう挙げておきますね。

(注)もっと簡単に確認する回はこちら。

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 そしてそれは、この世に「理解不可能なひとなどただのひとりも存在し得ないということを意味するとのことでしたね。

 

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そのことを確認したときの記事もいちおう載せておきますよ。

(注)もっと簡単に確認する回はこちら。

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 だけど、医学は一部のひとたちを異常と判定し、「理解不可能」と決めつけて、差別してきました。


 たとえば、あるひとたちのことを統合失調症と診断し、つぎのように、「永久に解くことのできぬ謎」だとか「了解不能」だとかと言ってきました。

かつてクルト・コレは、精神分裂病〔引用者注:当時、統合失調症はそう呼ばれていました〕を「デルフォイの神託」にたとえた。私にとっても、分裂病は人間の知恵をもってしては永久に解くことのできぬ謎であるような気がする。(略)私たちが生を生として肯定する立場を捨てることができない以上、私たちは分裂病という事態異常」で悲しむべきこととみなす「正常人」の立場をも捨てられないのではないだろうか(木村敏『異常の構造』講談社現代新書、1973年、p.182、ただしゴシック化は引用者による)

異常の構造 (講談社現代新書)

異常の構造 (講談社現代新書)

 

 

 専門家であっても、彼らの体験を共有することは、しばしば困難である。ただ「了解不能」で済ませてしまうこともある。いや、「了解不能であることがこの病気の特質だとされてきたのである。何という悲劇だろう(岡田尊司統合失調症、その新たなる真実』PHP新書、2010年、p.30、ただしゴシック化は引用者による)。

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

 


 最近はずっと統合失調症と診断され、このように「理解不可能」と決めつけられてきたひとたちに実際に登場してもらい、そのひとたちがほんとうは理解可能であることを実地に確認しています


 今回もまたそうしますよ。今回はCさんに登場してもらい、Cさん本人による当事者研究の成果から勉強させてもらいますね。





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2021年9月3,4日に文章を一部修正しました。


*前回の短編(短編NO.12)はこちら。


*このシリーズ(全64短編を予定)の記事一覧はこちら。