*障害という言葉のどこに差別があるか考える第16回
第3部にちょうどいま足を踏み入れました。最初にここまで二点、確認してきましたところを簡単にふり返らせていだだきます。
ひとを正常(健康なもの・健常者)と異常(障害者)に分けることは不当な差別に当たるのではないかと僭越ながらも疑念を呈すところから、この文章ははじまりました。
そしてさっそく第1部で、正常異常の区別が実は機械に対してつけられず、当然ひとに対してもつけられないことを確認しました。異常な機械も、異常なひともこの世に存在しないとのことでした。にもかかわらずひとを正常と異常に振り分ければ、両者のひとたちのあいだに不当な差をつけ、差別していることになるという次第でした。
実に科学は医学の名のもと、たくさんのひとたちをこれまで不当にも異常と決めつけてきて、今後も決めつけていくだろうと予想されるというわけです。
第2部で確認したのは、異常なひとはこの世に存在しないのになぜ科学は誰かを異常と決めつけることができるのか、またそのときいったい誰が不当にも異常と決めつけられるのか、ということでした。で、考察の結果、「ひとは作り手によって、みんな同じになるよう定められている」とする偏見を持っていればこそ科学にはそうして誰かを不当にも異常と決めつることができるのだということ、また科学に〈標準より劣っているとされるひとたち〉が不当にも異常と決めつけられるのだということを確認しました。
さて、こうした確認を済ませたばかりのみなさんと俺ですが、ほっとする間もなく、もうあらたな疑問にふたつ、つづけざまに直面することになっています。
科学は健康とか健常を身体や心が正常であること、かたや病気を身体もしくは心に異常があることと定義します。しかし正常異常の区別がひとに対してつけられないとなると、いったい健康や病気を何と考えればいいのか、疑問を覚えずにはいられません。
これがひとつ目の疑問です。
ふたつ目の疑問は何か。
健康とか健常を正常であること、病気を異常があることと定義する科学にとって医学とは、この世から異常なひとを無くす営みです。そのために医学が用いる、もしくは用いた方法はつぎの四つではないでしょうか。
- 異常なひとを生まれてこなくする(優生保護)。
- 異常なひとを殺す(ドイツ医学がやったこと)。
- 異常なひとを正常に矯正する(治療)。
- 異常にならないようにする(予防)。
ですが、「この世から異常なひとを無くす」も何も、そもそも異常なひとはこの世に存在しません。
「この世から異常なひとを無くす営み」など営みようがありません。
前記1から4までを細かく見てみます。「異常なひとを生まれてこなくする」(番号1)といっても、何もしなくてもこの世に異常なひとはひとりも生まれてきませんし、「異常なひとを殺す」(番号2)も何も、殺す相手が存在しません。異常を正常に矯正することを目的とする治療(番号3)を受ける必要のあるひともこの世に存在しませんし、異常にならないよう努め(番号4)なくても、誰も異常になりはしません。
けれども科学は、〈標準以上と思われるひとたち〉を正常とするいっぽうで、〈標準より劣っていると思われるひとたち〉を不当にも異常と決めつけます。
そして前記1から4を、それぞれつぎのようなものとしてやってきました。
- Ⅰ.〈標準より劣っていると思われるひとたち〉を生まれてこなくする。
- Ⅱ.〈標準より劣っていると思われるひとたち〉を殺す。
- Ⅲ.〈標準より劣っていると思われるひとたち〉を〈標準(以上)〉にする。
- Ⅳ.〈標準より劣っていると思われる〉状態にならないようにする。
しかし何度も申し上げなければなりません。異常なひとはこの世に存在しません、と。〈標準より劣っていると科学に思われるひとたち〉は異常ではありません。医療に求めるべきが、「異常なひとを無くす」ことであるはずはありません。
疑問がふたつ出そろいました。
- 疑問1.健康とか病気とはそもそも何なのか。
- 疑問2.医療とはいったい何か。
とは申しますものの、すでにみなさん、これらの疑問にたいするお答えをしっかと胸のうちにお持ちでしょう。みなさんのきりっとしたお顔を拝見すればわかります。
みなさんが医療に真にご要望になる処置は何でしょうか。それは、苦しまないでいられるようになることを目的とする処置ではないでしょうか(以後、「苦しさ」の反対を「快さ」と表現していきます)。
医療とは、苦しまずにいられるようひとを手助けする営みではないでしょうか(疑問2への答え)。
だとしますと、健康とは、苦しくない状態がつづくこと、かたや病気とは、苦しい状態が引きつづくことと考えるのが自然であるように思われますが(疑問1への答え)、いかがでしょうか*1。
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*1:2018年7月15日に文章を一部修正しました。