(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

科学公房著『箱人間』を真摯に読む

*科学の出発点をナミダナミダで語り直す第5回

絵、景色、についで、見るという知覚体験にも「絵の存在否定」をやってみせた僕さんですが・・・・・・


 いま、見るという知覚体験について、科学がどのように「絵の存在否定」という不適切な操作を為すか確認した。箇条書きでまとめるとこうである。

  • 1.位置の承認

 柿の木と僕の身体とがその瞬間、それぞれ現に在る場所に位置を占めているのは認める。

  • 2.部分であることを否認

 しかしそれらをいずれも「柿の木を見ているという僕の体験の部分」とは認めない。

  • 3.絵が存在していないことになる

 するとその瞬間、柿の木と僕の身体とはたがいに離れた場所にただバラバラあるだけであって、僕には前方数十メートルのところにある柿の木が見えているはずはないということになる。すなわち、柿の木を見ているという僕の知覚体験がそのとき存在していないことになる。

  • 4.場所の追放

 そこで科学は、その瞬間に現に僕が目の当たりにしている柿の木の姿を、前方数十メートルのところにあるものではなく、僕の心のなかにある映像であることにする。

  • 5.存在のすり替え

 と同時に、僕の前方数十メートルの場所にはその代わりに、「見ることも触れることもできず、音もしなければ匂いも味もしない元素の集まり」にすぎない柿の木が実在しているということにする。

  • 6.視覚=情報伝達変換論

 そして、心の外に実在する「見ることも触れることもできず、音もしなければ匂いも味もしない元素の集まり」にすぎない柿の木についての情報が、光、眼、神経、を経て脳に行き、そこで心のなかの映像に変換されるとし、それこそ、その瞬間に現に僕が目の当たりにしている柿の木の姿だとする。


 いま見た「絵の存在否定」を、科学は、聞く、匂う、味わう、触れる、といった他の知覚体験すべてにやる。


 そのなかから、聞くという体験についてのみちらっと見ておかん。


 いまこの瞬間、僕が前方に柿の木を見ているものとご想像いただいた。このとき、数十メートル離れた公園であがっている子供たちの歓声(音)が僕に聞こえているとする。


 僕がその瞬間に聞いている子供たちの歓声と僕の身体とは、たがいに離れた場所にあって、しかもいっぽうは音、もうかたほうは身体といったようにありようも異なる。が、その瞬間、僕は現にその歓声を聞いている。たがいに離れた場所にあって、しかもありようすらたがいに異なっている歓声(音)と僕の身体はそのとき共に「歓声を聞いているという僕の体験の部分」である。


 科学はその瞬間に僕が聞いている歓声と、その瞬間の僕の身体とが、それぞれ現に在る場所に位置を占めているのは認める(1.位置の承認)。しかしそれらをいずれも「歓声を聞いているという僕の体験の部分とは認めない(前記2.部分であることを否認)。


 すると、子供たちの歓声と、僕の身体とはそのとき、たがいに離れた場所にただバラバラにあるだけということになる。そのとき子供たちの歓声が僕に聞こえているはずはないということになる(前記3.絵が存在していないことになる)。すなわち、子供たちの歓声が僕に聞こえているという体験がこのとき存在していないことになる。


 しかし、ここでみなさんはやはりこう疑問にお思いになるはずだ。さあ、ご唱和ください。


「でも、その瞬間、僕さんは現に子供たちの歓声を耳にしているんじゃ・・・・・・?」


 そこで科学は、そのとき僕が現に耳にしている子供たちの歓声を、数十メートル先の公園であがっているものではなく、僕の心のなかにある像であることにする(4.場所の追放)。で、僕の身体から数十メートル離れた公園にはその代わりに、「見ることも触れることもできず、音もしなければ匂いも味もしない元素の運動にすぎない音が実在していると考える(5.存在のすり替え)。そして、聞くとは、その「元素の振動」についての情報が、鼓膜にやって来て、そこからいくつかの骨、神経を経て、脳までたどり着き、最後、心のなかの音に変換されることだとするわけである(6.知覚=情報伝達変換論)。


 嗅ぐ、味わう、触れる、といった知覚体験についても同じように科学は「絵の存在否定」を為し、僕が嗅ぐ匂いも、味わう味も、共に僕の心のなかにある像であることにし、匂いと味も、心の外に実在する「見ることも触れることもできず、音もしなければ匂いも味もしない元素の集まり」にすぎないと考えて、それぞれ、匂い分子味物質とするという次第である*1

脳科学の教科書 神経編 (岩波ジュニア新書)

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また一日、配信をまちがえました・・・・・・


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*1:2018年1月24日と同年7月19日に文章を一部訂正しました