*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38
◆大声で怒鳴ったのはおかしなことか
その後のことはこんなふうに記されていました。
入院直後から抗精神病薬の投与がなされたが、Nさんの状態はすぐには改善しなかった。本人は、「やっぱり辛い、帰りたい」と訴える。翌朝になっても、「辛くて仕方がない。だれも、食事を持ってきてくれない、歯磨きをする場所が遠い」「入院がこんなに辛いとは思わなかった。退院したい」と幼稚な退院要求を繰り返した。
よっぽど、病院が嫌だったのでしょうね。どんな理由をつけてでもそこから逃れたかったということもあるかもしれませんね、もしかすると、ね?
で、こういうことでした。
看護スタッフが説得して入院を続けることになったが、それからも「家に帰りたい」と、ひんぱんに訴えが続いた。「ふらふらと勝手に足が動いて、高い所に上りたくなる」と自殺をにおわせる発言もみられている。
その直後には、こうも書いてありました。
このような状態であるにもかかわらず、夜間に突然怒りだして、いびきがうるさいと隣の患者の鼻をつまみ、「うるせーんだよ」と大声を出すこともあった。
でも、Nさんがそうして大声で怒鳴り出したのは、全然不自然なことではありませんね? Nさんの立場にいたら、大声のひとつも出したくなるわ、とみなさん、同情したくなりません? ちょうどいま「このような状態であるにもかかわらず、夜間に突然怒りだし」たと書いてあるのを見ましたけど、むしろそこは「このような状態であればこそ」となっていたほうが、ピッタリくるような気が、みなさん、しませんか。
いびかをかいているひとの横で寝たこと、みなさん、あります? 寝られない苦しさと、騒音を聞かされる苦しさのふたつを同時に味わわされますね?
しかも、そうした苦しみを味わわせてくる当人は、横でグウスカのんきに寝てるときてる。
腹が立たないわけありませんよね?
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/9)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りしています(今回はpart.6)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。