*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38
◆絶望したり、死にたくなったりしたのはおかしなことか
第4段落目からひとつひとつ順に追っていきますね。
予備校にも行けず、死ぬこともできず、依然勉強にも集中できないでいる2浪生のNさんは、ゴールデンウィークの直前、「けじめをつけると言って、突然予備校をやめてしま」ったとのことでしたね。
Nさんは、厳しいところまで追い込まれましたね? どうですか、みなさん? こんふうにとことんまで追い詰められたら、もう絶望してしまったとしても何ら不思議はないと思いませんか。
絶望すると、どうなります?
いろんな意欲を失いますね? ものごとへの興味や集中力を失いますね? 実際、先ほど見ましたように、このあとNさんは絶望し、つぎのように意欲や興味や集中力を失います。
五月の下旬からは、Nさんは何もする気がしなくなった。一日中横になっていて、テレビがついていても見る気がしなくなった。本人は、「すべてに無関心になって、空虚な感じがして、何をするのも、食事をするのも、歯を磨くのも、風呂で体を洗うのもめんどうくさい」のだと言う。実際、入浴を介助してもらい、母に身体を洗ってもらったこともあった。
ところが、失恋して落ち込んでいるひとの表情にも多くの場合、いつか笑顔が戻ってくるように、幸いなことに、「六月の末になり、本人の状態が比較的落ち着いて」きた。そこで、「両親は以前から計画していた海外旅行に行った」とのことでしたね。
けどNさんは今度はそのことで、親に見捨てられたような気分になったのかもしれませんね? こう書いてありました。「親は旅先から電話を入れたが、本人は一度も電話に出なかった」。で、「両親の旅行中、不安感、焦燥感が強まり、通院中の病院に何度も電話して、死にたいと訴えたが、きちんと服薬するように指示されただけだった」って。
そりゃあ、Nさんの立場にいたら、不安にもなるし、焦りもするというものですよ。先行きは暗いし、打開策も見当たらないし、親に見捨てられたような気分にもなるし。となれば、死にたくなったとしても何らおかしなことはないのではありませんか。
そして、「両親の帰国後、不安定な状態はますます強くなった」とのことでした。「母親の目の前でビルに上り、飛び降りて死んでしまいたいと訴えることが起きたため、彼は両親につれられ私が勤務していた精神科を受診して入院となった」とのことでしたね。
親にたいする怒りも当然そこにはあったでしょうね。
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りしています(今回はpart.6)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。