*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.38
けど、そうした苦痛がかなりのものであるということは横に置いておいたとしても、やっぱりNさんが大声で怒鳴ったのは自然な成り行きだったと思いません? ここまで、Nさんは、かなり苦しんできていますね。Nさんが精神科医にしきりに苦しさを「訴え」ていたらしいことが、いま読ませてもらっている事例報告からヒシヒシと伝わってきていませんか? Nさんは精神科医にこうしたことを「訴え」ていたのではないでしょうか。
予備校に行っても、嫌がらせをされる。
ひととすれ違いざま、「うぜえ」とか「バカ」とか言われる。
女性の顔のようなものが目のまえに浮かびあがってきて勉強等に集中できない。
死にたい、
って。それらは、苦しさを「訴え」るものではありませんか。Nさんは、苦しまないで居てられるようになることを「要望」する眼差しを暗に医師相手に送りながら、そうした苦しさを「訴え」ていたのではないかと、みなさん、おのずと推測されません?
そんなに苦しんできているなか、さらに精神病院に入院させられ、嫌で嫌で仕方がないその場所で隣の患者に夜中、いびきまで聞かされて、苦しめられる。そりゃあ、「うるせーんだよ」のひと言くらい、大声で怒鳴りたくもなりますね?
だけど、Nさんの、苦しさを「訴え」、苦しまないで居てられるようになることを「要望」するそうした声は、医師には届いていなかったのではないでしょうか。届いていなければこそ、Nさんがそうして大声で怒鳴ったのが、医師には奇異なことと映ったのではないでしょうか。
2021年8月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/9)はこちら。
*Nさんのこの事例は全6回でお送りしています(今回はpart.6)。
- part.1(短編NO.33)
- part.2(短編NO.34)
- part.3(短編NO.35)
- part.4(短編NO.36)
- part.5(短編NO.37)
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。