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科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

ドーキンス進化論をまとめるよ

*進化論はこの世をたった1色でぬりつぶすんだね第16回


 さて、俺たちは、利益と不利益をコインの表裏のようにつねに表裏一体とする進化論の見方をあらため、いまやこの世界には利己的行為や利他的行為のほか、「利益の与えあい」もまた存在しているとみとめられるようになりました。で、それは、ついでに言いますと、第三者を「利益の与えあい」の蚊帳の外に置くという「第三者の押しのけ」すなわち、仲間はずれ、をも世界のうちにみとめられるようになるということでした。こうして俺たちは、この世界を利己的行為一色にぬりつぶす進化論にたいし、この世界を、生物個体による利己的行為、利他的行為、「利益の与えあい(第三者の押しのけを含む。以後同じ)」の三色刷で示せるようになったわけです。ただし、このことから、進化論が説く一色ずりのものよりもこの世界を美しいものとみとめられるようになったとは一概には言えないと、ここでお断りしておきたいと思います。先ほど見ましたように、「利益の与えあい」には「第三者の押しのけ」すなわち、仲間はずれが付随する可能性があります。

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 


 では、ここまでドーキンスの進化論的世界観について長々と確認してきましたところを、簡単に箇条書きでまとめます。彼は利益と不利益をコインの表裏のようにつねに表裏一体とみなすところからはじめました。すると論理はつぎのように展開しました。


展開1

利益を得るとはかならず他に不利益を与えること、つまり利己的行為である。


展開2

他に利益を与えるとはかならず自分が不利益をこうむること、すなわち利他的行為である。


展開3

利己的行為は、生きるために利益を得ることの役に立つものの、利他的行為は、生きるのに何の役にも立たないどころか、足引っぱりにすらなる。


展開4:進化論的理論の出来

利他的行為は淘汰されてすでに無く、今現在、存在しているのは利己的行為だけであるにちがいないとする。


展開5:理論と現実の背反1

しかし実際には生物個体による利他的行為はこの世に存在する。


展開6:現実を修正する1

生物個体については言えなくなった、利他的行為は(すでに)無く、今現在、存在しているのは利己的行為だけであるにちがいないとする「進化論的理論」を、根拠はないにもかかわらず、遺伝子に当てはめると成立すると考え、 遺伝子には利他的行為は無く、利己的行為しかないにちがいないとする「新・進化論的理論」をつくりあげる。そして、その新理論にもとづき、生物個体による利己的行為と利他的行為をともに、遺伝子による利己的行為であることにする。


展開7:理論と現実の背反2

利益と不利益をつねに表裏一体とし、「利益の与えあい」をこの世には存在しないことしにしてきたが、実際には「利益の与えあい」は存在する 。


展開8:現実を修正する2

今度は、生物個体による「利益の与えあい」を、遺伝子による利己的行為のことにする。


展開9:世界を一色に塗りつぶす

このように世界を、遺伝子による利己的行為一色にぬりつぶす。つまり、ライバルを「押しのけよう」とする複数の遺伝子が利益争奪戦をくりひろげ、その結果、他を「押しのけて」利益を獲得したものが生き残り、他に「押しのけられて」利益を得られなかったものが淘汰されて消えゆくといったように、この世を遺伝子同士の「押しのけあいの世界」とする。


 そして、この遺伝子同士の「押しのけ合い」を、ドーキンス進化論では生存競争と表現します*1

つづく


前回(第15回)の記事はこちら。


このシリーズ(全24回)の記事一覧はこちら。

 

*1:2018年8月7日付記。利己的行為という言葉にかかっていた〈〉と、利他的行為という言葉にかかっていた《》をとり外しました。