*ガンを原因と思っていればなんでもできる???第6回
科学が出来事を一箇所のせいにするのは、ガンについてだけではありません。みなさんが何かを思ったり、何かをしたりすることを脳科学は脳という一箇所だけのせいにして説明していますし、最近の科学は生物の行動や身体つきなどすべてを遺伝子という一箇所のせいにしています。また免疫学も隆盛を極めていて、病気をよく、ウィルスや細菌という一箇所のせいにしています。たとえばエイズなる病気は、HIVというウィルス一箇所のせいにされていますが、そのようにHIVウィルスだけのせいにしますと、エイズと貧困を関係づけて考えることは難しくなります。HIVウィルス保有者を数多くかかえている南アフリカは、エイズをHIVウィルス一箇所だけのせいにし、意図的にか結果的にか、貧困とエイズを関連づけない科学の見解に拒否反応を示したと聞きます(いまはどうなのか存じ上げません。詳しいことは下記の本をごらんください。その本の著者である医師が、出来事を一箇所のせいにする見方にのっとっているのもよくわかります)。
また、つい最近では、エボラ出血熱がエボラ・ウィルス一箇所のせいにされています。エボラ出血熱が流行したと報道されたのは、国連の調査によると、世界の最貧国に位置する国々で、エボラ出血熱をエボラ・ウィルス一箇所のせいにしているために、そうした事情も度外視されているように思われます。
そういえば、当時、地震や飢饉や戦争といった災害が頻発していたと書きながらも、中世ヨーロッパで起こった黒死病によるとされる大量死をペスト菌だけのせいにしている分厚い本を読んだこともあります(参考文献を300くらいあげている本でした)。
黒死病―ペストの中世史 (INSIDE HISTORIES)
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かつて新聞紙をぱらぱらめくっていて目に止まった、アメリカ駐在の日本人記者による短い記事のことも思い出します。当地では、寒くて風邪(厳密にいえばインフルエンザでしょうけれども)をひいたと言うと笑われると書いてありました。寒さのせいで風邪はひかない、ウィルスだと訂正されるとのことでした。しかしほんとうに寒さは無関係なのでしょうか。
未来予想、治療、予防、治療成績向上などありとあらゆることが楽ちんになる一箇所主義(出来事を一箇所のせいにすること)はこのように、生き物(特に人間)に関する説明のあらゆるところにみうけられます(もちろん、生き物に関する説明のすべてが、こうした一箇所主義的な見方にのっとっていると言おうとしているのではありません)。しかしみなさんが(当然、俺も、です)科学に本格的に入門したときに叩き込まれた、出来事の見方は、そうした一箇所主義を許さないものだったはずです。
高校生になると、物理学の授業が始まります。最初の単元は力学ですけれども、そこでみなさんは、出来事を捉えるとは、当の出来事に登場する存在をできるかぎりひとつひとつあげていって、それらがどう関わっているかを明らかにすることだと習われませんでしたでしょうか。力学では、机のうえに置いてある本を把握するのにさえ、机の表面から本へと垂直抗力がどういう向きで加わるかを明らかにしなければなりませんし、地球から本にどれくらいの重力が加わるかも考慮に入れなければなりません。机表面から本へ、どの向きに垂直抗力が加わるかを明らかにするためには更に、その机の形や、机が置かれている床や建物まるごとも考慮に入れる必要が出てきます(床や建物自体が傾いていることは十分ありえますし、机の下が畳だと机表面は傾き得ます)。力学をとおって本格的に科学へ入門するさいにみなさんは、出来事を把握するには、当の出来事に登場する存在にできるかぎり多く配慮しなければならないとするこうした出来事の見方を徹底的に教え込まれます。
科学は、身体のなかで起こる出来事についてはおうおうにして、出来事のなかの一箇所のせいにします。そうして一箇所にのみ配慮していればいいとします。たった一箇所にのみ配慮していれば、余命宣告も、治療も、予防も、治療成績向上も簡単にできるとします。
ガン、ワクチン(感染症)などについて、科学の従来の見解に異議をとなえている科学者がいらっしゃいますけれども、俺がそのかたたちの声に耳を傾けていていつも思うのは、問題は医学の専門的なところではなく、むしろ根本的なところにあるのではないかということです。
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出来事を一箇所のせいにし、当の一箇所にのみ配慮していればいい(当の一箇所にのみ配慮していれば、余命宣告も治療も予防も成績向上もできる)とする出来事観が、問い直されかけているのではないでしょうか。
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