(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

違いをひとつにしぼれ

*コーヒー疫学、違いをひとつにしぼらない第1回


 首がとれそうになるくらい、首をひねっている。


 国立がん研究センターが中心となってコーヒーに関し、コホート調査をやったそうである。その調査を報じている記事をぐうぜん読んで俺はいま、しきりと目をパチクリいわせ、何度も現役時代のe川投手くらい首をかしげているのである。


 ここ最近、出来事を一箇所のせいにする思想について、考察してきた。今回は、コーヒーに関するこのコホート調査をとりあげ、差を一箇所のせいにする解釈を点検する。


 The Pageというサイトによると、その調査では、「1990年以降、岩手県から沖縄県に至る男女9万人(当時40歳~69歳)を追跡」したとのことである。「この人たちは、調査開始段階で『がん』や『循環器疾患(心臓病など)』になっていなかった、いわゆる健康な人です」と書いている。


 そんな、身長も、体重も、味の好き嫌いも、一日に食べる野菜や肉の量も、一日に摂取する水分や塩分の量も、労働内容も、運動習慣も、胃腸の強さも、気持ちの繊細さも、コーヒーにいれる砂糖やミルクの量も、コーヒーを飲むタイミングも異なるみなさんを、ただ一日に飲むコーヒーの杯数の違いだけにもとづいて調査団は、複数のグループにわけた。コーヒーをほとんど飲まないグループ、一日にコーヒーを1杯未満飲むグループ、一日にコーヒーを1〜2杯飲むグループ、一日に3〜4杯飲むグループ、一日に5杯以上飲むグループの計5グループに、である。そして、当初60歳だったひとが85歳になる25年後まで追跡し、その25年後の時点での、心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患(以下、心臓病等と略す)による死亡率を調べた。すると、グループごとにその数値は異なっていた。

 図1が、今回発表された結果です。追跡期間中に何らかの原因で亡くなるリスク(危険度)を調べたところ、コーヒーをほとんど飲まない人を1とすると、1日3~4杯飲む人は0.76でした*1

 

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同記事より引用


 そこで調査団は、グループ間のこの心臓病等による死亡率の差を、グループ間の「一日に飲むコーヒーの杯数の違い」という一箇所のせいにした。つまり、一日にコーヒーを3〜4杯飲むことで(コーヒーを飲まない場合より)、心臓病等による死亡率は0.24(=1-0.76)低下するといったふうに解した。

 この結果は、例えばコーヒーをのまない人と1日3~4杯飲む人がそれぞれ1000人いたとして、およそ25年後には飲まない人が100人亡くなるのに対し、3~4杯飲む人は76人しか亡くならない、というようなことを示しています。(分かりやすくするため、数字はデフォルメしています)

 死因別に見てみると、心疾患(心臓病)や脳血管疾患(脳卒中)、さらには呼吸器疾患(肺炎など)などの病気でコーヒーを飲む人は死亡率が下がっていました*2


 しかしグループ間の、心臓病等による死亡率の差を、グループ間の「一日に飲むコーヒーの杯数の違い」という一箇所のせいにしたいのなら、せめて、グループ間には、「一日に飲むコーヒーの杯数の違いのほかには違いがなかったと言えるくらいにグループ間にみとめられる違いを(できる限り)ひとつにしぼりこんでおく必要があったのではないだろうか。


 つまり、グループ間の違いはたったひとつ、と言えるくらいにしておかなければならなかったのではないだろうか。

つづく


このシリーズ(全6回)の記事一覧はこちら。

 

*1:同記事より

*2:同記事より