(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

医学のガサツな物質観について確認する(1/3)

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第10回

目次
・医学の出来事観の復習
・医学の物質観(3つの表現で)
・物質の現実(アルコール、コーヒー、毒、薬)


◆医学の出来事観の復習(読み飛ばしてもらっても支障ありませんよ)

 医学は、ひとの身になろうとする代わりに、身体に起こる出来事を一点のせいにするってことでしたよね。ここまで、その、出来事を一点のせいにするっていうのがどういうことか見てきました。こういうことでしたね。


出来事を一点のせいにするというのはつぎのような論理である(第6回)。

  • 出来事が好ましい場合には、すべてをその一点のおかげとし、その一点を過大評価すること。
  • 出来事が好ましくない場合には、すべてをその一点におっかぶせ、その一点をとり除きさえすればいいとすること(排外主義の論理)。


しかし身体に起こる出来事を一点のせいにすることはできない物理学も化学も出来事を一点のせいにできるなどと教えてこなかった(第7回)。


身体に起こる出来事を一点のせいにするというのはその一点を状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因であることにしその一点があれば当然当の出来事が起こってくるということにすること(第8,9回)。

  • しかし、そんな一点(原因)はこの世に存在しない(そんな一点を特定したと言っているひとは、都合の良いデータしか見ていない)。
  • それでもそうした一点(原因)を特定しようとすると、つぎのことが起こる。

(a)いくつかの都合の良いデータしか見ないで、誰かがそうした一点(原因)を特定したことにする。

(b)追試でその説の真偽を確かめようとした他のひとたちが、その説には都合の悪いデータに出くわし、その説に異議を申し立てることになる。

(c)そこで医学は、誰かが挙げたその一点を、探し求めている一点(原因)の一片であることにしておいて、再度、特定作業をやり直す。

(d)以後、上記(a)から(c)のくり返しが何度も起こり、探し求めている一点(原因)の一片とされるものがやたらめったら増えていく(それら一片同士を都合良く結びつけて、当の出来事が起こるメカニズムであることにする)。


 さて、こうして確認してきたのはいったい何ですかね? 言ってみれば、医学の出来事観、じゃないですか、ね?


 さあではここからは医学の物質観のほうを見ていきますよ


         (1/3) (→2/3へ進む

 

 

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医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《5/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回


統合失調症をウィルス一点のせいにする

 医学は統合失調症を脳のなかの一点のせいにするって先に言ったじゃないですか。で、脳のなかにそうした一点があるのをさらに、遺伝子変異もしくはウィルスという一点のせいにするんだ、って。ついいまさっき、その、遺伝子変異のせいにするほうを見ました、ね? じゃあウィルスのせいにするほうも最後に見ておきますか

統合失調症の人は、一月から四月の、冬から早春に生まれた人に多いことが知られている。逆に、南半球では、七月から九月生まれの人に多い。この事実は、統合失調症の原因と何か関係があるのではないかと考えた人も多く、さまざまな説明がなされてきたが、そのうちもっとも有力なものの一つは、ウィルス感染説である。


 母親の胎内にいるときに、母親がインフルエンザなどに感染することで、神経系の発達が障害されて脆弱性を抱え、発症しやすくなるのではないかというのである。実際妊娠中にA型インフルエンザに感染したとき、発症リスクが高まるとの報告がある。最近の研究でも、妊娠初期に母親がインフルエンザに感染すると、生まれた子どもが統合失調症にかかる危険は七倍になると報告されている(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、165〜166頁)。

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 


 だけど、統合失調症をインフルエンザウィルス一点のせいにするためには都合の悪いデータを無視しないといけないんじゃないですかね。ほら。

 もっとも、夏生まれの人にも、統合失調症を発症する人はたくさんいる。最近の報告によると、陰性症状を発症の中心とする統合失調症は、夏生まれの人に多いという結果が示されている(同書166頁)。 


 他にこんなことも言われているそうじゃないですか。

 ウィルス感染が関与しているケースは、ほかにも知られている。二〇〇一年、ジョンズ・ホプキンズ大学小児医療センターの研究チームは、一部の統合失調症の原因が、Wレトロウィルスの感染によるとする研究結果を発表した。患者の脳脊髄液を調べると、急性期の患者の三〇パーセントから、感染を示すRNAが認められたが、対照とした他の患者や健常者からは、一例も認められなかったという(前掲におなじ)。


 急性期の患者に限ったうえさらにそのなかの70%を無視するというのでなければ、統合失調症をWレトロウィルスのせいにすることはできない、ってところですかね? でも、さすがにそれじゃあ、このWレトロウィルスを統合失調症の原因ウィルスってことにするには無理があるんじゃないのかなあ。で、もし実際に、無理があるってことになったら、医学はそのときどうするとみなさん思います? 出来事を一点のせいにしようとしているのがそもそも不適切なんじゃないかってみずからを疑ってみると思います? 俺ならこう予測しますね。医学はそのウィルスを統合失調症を発症させる原因の一片だってことにしておいて、再度、統合失調症を発症させる原因の特定作業をし直すんじゃないか、って。


 ほら、さっきの引用のつづきを見てくださいよ。

 ただし、ウィルス感染説は、多様な原因の一つを説明するにすぎない(前掲におなじ)。



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付録

  • 科学者・中村桂子さんは下の著書で、身体に起こる出来事を遺伝子一点のせいにすることはできないと、くり返し、警鐘を鳴らしてません?
ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

 
  • 身体に起こる出来事を一点のせいにできると考える大科学者・リチャード・ドーキンス氏は、下の本で、「溺れた仲間を助ける遺伝子」なるものさえ想定していますね。
利己的な遺伝子 <増補新装版>

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医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《4/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回


統合失調症を遺伝子一点のせいにする

 医学はこのように統合失調症を脳のなかの一点のせいにしたあと、脳のなかにそうした一点があるのを遺伝子のなかの変異一点もしくはウィルス一点のせいにしますって先に言いましたよ、ね? 医学はそうして、その遺伝子変異一点もしくはウィルス一点を、統合失調症を起こす根本原因であるってことにするわけですけど、出来事を一点のせいにすることは、何度も言いますように、できないじゃないですか。結果、つぎのようなことが起こるんじゃないですか、ね?

  • (a)誰かがいくつかの都合の良いデータしか見ないで、統合失調症を或る遺伝子変異一点のせいにする(統合失調症の原因遺伝子を見つけたことにする)*1
  • (b)ところが後日、追試でその説の真偽を確かめようとした他のひとたちがその説には都合の悪いデータに出くわし、その遺伝子変異とやらを「統合失調症の原因遺伝子」とするには無理があると異議を申し立てることになる。

 たとえばアイスランドで、統合失調症の多発する家系の遺伝子を解析した結果、ニューレグリン‐1遺伝子の変異がみつかった。ニューレグリン‐1遺伝子は、シナプスやグリアの発達に不可欠なタンパク質をコードしている。この遺伝子変異をもつものは、統合失調症の患者全体の一五パーセントであるが、この遺伝子変異によって、統合失調症にかかる危険度はわずかに二〜四パーセント増加するにすぎない。当初は統合失調症の遺伝子マーカーとして有望視されたが追試が進むにつれて関連を認めないという結果が相次いでいる。これは、多因子遺伝という特性から、むしろ普通の成り行きなのである(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、161頁、ゴシック化は引用者による)。

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 

 

  • (c)このように医学は、出来事を一点のせいにすることはできないんじゃないかと疑ってみることもなく、その遺伝子変異を「統合失調症の原因遺伝子」の一片であることにしておき、再度、「統合失調症の原因遺伝子」の特定にとりかかる。
  • (d)その後、先の(a)から(c)の流れを何度もくり返すことになり、「統合失調症の原因遺伝子の一片とされる遺伝子変異とやらがやたらめったら増えていく  


 こういった展開は、アメリカで1970年代にはじまった大規模ガン研究でも起こったことじゃなかったですかね? 身体にガンができるという出来事を遺伝子のなかの変異一点のせいにできると考え、そうした一点を特定する研究(ガンの原因遺伝子を特定する研究)をはじめた。すると、いま言ったのとおんなじことが起こったんじゃなかったですかね?

裏切り者の細胞がんの正体 (サイエンス・マスターズ)

裏切り者の細胞がんの正体 (サイエンス・マスターズ)

 


 いくつかの都合の良いデータしか見ないで、誰かがそうした一点(ガンの原因遺伝子)を見つけたと手を挙げた*2。ところが後日、追試でその説の真偽を確かめようとした他のひとたちがその説にとって都合の悪いデータに出くわし、その遺伝子変異とやらをガンの原因遺伝子とするのは適切ではないと異議申し立てすることになった。そこで医学は、出来事を一点のせいにすることはできないのではないかと疑ってみることもなく、その遺伝子変異とやらをガンの原因遺伝子の一片であることにしておき、再び、ガンの原因遺伝子特定にとりかかることにした。するとその後、こうしたことのくり返しが何度も起こり、ガンの原因遺伝子の一片とされるものがやたらめったら増えていった  


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*1:2019年6月24日に、この一文を1箇所訂正しました。

*2:同上。

医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《3/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回


統合失調症を脳内物質一点のせいにする説

 統合失調症脳内物質のうちの一点のせいにする説もあると言いますね? でもそうした説を立てることもまたできないんじゃないのかなあ都合の悪いデータを無視したり誤魔化したりすることなしには? だって、しつッこいようですけど、出来事を一点のせいにすることなんかそもそもできないじゃないですか、ね?

 第二章で、幻覚妄想に効果がある薬として登場したクロルプロマジンは、統合失調症の治療を大きく変えたことを述べた。その後、クロルプロマジンの効果は、ドーパミンD2受容体を遮断する作用によることが判明し、統合失調症ドーパミンの過剰によって起きるというドーパミン仮説が提起された(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、171頁、ゴシック化は引用者による)。

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 


 統合失調症いくつかの都合の良いデータしか見ないで脳のなかのドーパミン過剰という一点のせいにしたんじゃないですか、ね?*1 ほら。

 だが、この仮説では、うまく説明できない事実がいくつかあった。(略)


 たとえばその一つは(以下略)。


 また、ドーパミンの過剰放出が根本的な原因であるのならば、そもそも、D2受容体を遮断する薬剤が十分に効かないケースが少なからずあるのは、どうしてなのかという疑問があった。そもそもドーパミンの過剰放出は、なぜ起こるのかという根本的な疑問もある。ドーパミン仮説の欠陥を多くの人が認めざるを得なかったのである(同書173〜174頁、ゴシック化は引用者による)。


 そこで医学は、ドーパミンの過剰を、探し求めている一点(統合失調症を発症させる原因)の一片であることにしておき、再度あらたにそうした一点の特定をやり直したって言うじゃないですか。出来事を一点のせいにすること自体、誤りなんじゃないかと疑ってみることもなしに、ね?

 ドーパミン仮説の限界に対して、統合失調症の複雑なメカニズムを説明する理論として新たに登場したのが、「グルタミン酸仮説」である。前項でも述べたように、グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質で、大脳皮質を構成する錐体細胞と呼ばれるピラミッド型の細胞には、グルタミン酸の受容体が遍く分布し、錐体細胞同士の信号伝達は、このグルタミン酸が介して行われている。そのためグルタミン酸は、精神活動の幅広い領域にかかわっているのである。統合失調症の「グルタミン酸仮説」は、このグルタミン酸系の過剰活動がこの疾患の症状形成に関与しているという理論である(同書178〜179頁、ゴシック化は引用者による)。


 でも、何度だって言いますよ、出来事を一点のせいにすることはできませんよね、って。探し求めている一点統合失調症を発症させる原因グルタミン酸の過剰に求める説もいくつかの都合の良いデータしか見ないで立てられたものであって、後日、追試でその説の真偽を確かめようとし、その説に都合の悪いデータに出くわすことになった他のひとたちに、異を唱えられることになるんじゃないですか、ね?*2


 それとは別に、統合失調症を脳のなかの酵素一点のせいにしようとするつぎのような説もあるそうですよ。

 二〇〇三年、マサチューセッツ工科大学利根川進教授らのグループは、カルシニューリンという酵素を構成するサブユニットに、統合失調症と関連する遺伝子変異が見られることを報告した。この遺伝子変異は、白人にも黒人にも認められ、その後、日本人でも統合失調症と強い関連が認められている。


 カルシニューリンは、神経系の働きを調整する酵素であるが、ドーパミン系とグルタミン酸系が合流する部分で、調整を行っている酵素でもある。長期抑制と呼ばれる働きや神経成長因子の活性を調整する役割も担っている。カルシニューリンの異常は、ドーパミンD1系‐NMDA系の過剰活動や認知機能障害、さらには神経細胞の萎縮を、うまく説明できるのである。


 カルシニューリンの変異が統合失調症の発症の原因であるという「カルシニューリン仮説」は、ドーパミン仮説やグルタミン酸仮説を統合する理論となりうるのである(同書185〜186頁、ゴシック化は引用者による)。


 医学が、ドーパミングルタミン酸の過剰を「状況に関係なくひとに統合失調症を発症させるもの」(統合失調症を発症させる原因)の一片であることにしたってこと、先に確認したじゃないですか。そうしておいたドーパミングルタミン酸の過剰をここで医学はカルシニューリンと都合良くつなげて統合失調症の発症メカニズムなるものを作ろうとしているってことなんじゃないですか、ね?


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*1:2019年6月24日に、この一文を1箇所訂正しました。

*2:同上。

医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《2/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回


統合失調症を神経系内の一点のせいにする説

 医学は、統合失調症を脳のなかの一点のせいにできると考えます。その一点こそ、「状況に関係なくひとに統合失調症を発症させるもの」(統合失調症を発症させる原因)であって、その一点があれば当然そのひとのもとに統合失調症が発症してくる、と決めつけます。そして、ある医学者たちは、そうした一点は脳の神経系のなかにあって、神経が働くのを邪魔するんだと主張します。で、脳のなかにそうした一点があるのを、さらにあるひとたちは遺伝子のなかの異変一点のせいにし、また別のひとたちはウィルスという一点のせいにします。


 でも、出来事を一点のせいにすることなんかできないじゃないですか。神経系のなかに、そんな一点を探しても見つけられないんじゃないですか、ね? もし見つけることができたとしてもそれはいくつかの都合の良いデータしか見ないで、なんじゃないのかなあ*1

 胎児期のインフルエンザ感染や、脳の構造的な異変が発達早期からはじまったものと考えられることなどから、統合失調症は、胎児期から出生後間もない時期において、神経系が何らかのダメージを受けたり、遺伝子の異常から、発達の過程に問題が生じて、本来の発達をうまく遂げられなかったことに原因があるのではないのかという仮説が登場した。遺伝子変異などの遺伝的要因も、ウィルス感染や出産時の外傷といった環境的要因も、どちらも神経発達に関与し、神経発達の障害を引き起こしうる


 発達が統合失調症の発症に関係しているのであれば、子ども時代に、すでに何らかの徴候が認められるはずである。それを裏づけるべくアメリカやヨーロッパで、子ども時代から、統合失調症が発症する年代までを追跡した調査が行われた。そのうち、もっとも大規模なものがアメリカで行われた。一九五九年から一九六六年に生まれた子ども五万五〇〇〇人を対象にしたコホート研究で、その結果、後に統合失調症を発症した人のうち約三割の人に、子ども時代から特徴的な傾向が認められたが、残りの七割には特段変わった点は認められなかった。


 約三割の人に認められた特徴は、次のようなものである。(略)


 これらは、今日、発達障害として捉えられているものの特徴とも重なる。実際、筆者の経験でも、統合失調症として診断されている人の四分の一〜三分の一には、発達障害やその傾向が認められる。(略)


 しかし、同時に統合失調症の多くでは、発達の問題が見られなかったことも、強調しておく必要がある。それまで、まったく問題なく成長を遂げていた若者が罹患するのである(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、168〜170頁、ゴシック化は引用者による)。

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 


 これはこういうことなんじゃないですかね? すなわち、データのうちの7割都合の悪いデータを見て見ぬふりをしなければ統合失調症を神経系のなかの一点のせいにすることはできない  


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*1:2019年6月24日に、この一文を1箇所訂正しました。

医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《1/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回

目次
・復習(原因は特定できない/それでも原因を特定しようとするとどうなるか)
統合失調症を神経系内の一点のせいにする説
統合失調症を脳内物質一点のせいにする説
統合失調症を遺伝子一点のせいにする
統合失調症をウィルス一点のせいにする


◆復習(原因は特定できない/それでも原因を特定しようとするとどうなるか)

 医学は、ひとの身になろうとする代わりに、身体に起こる出来事を一点のせいにするってことだったじゃないですか。それって、その一点を状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因とするってことでしたよね。そうして、その一点があれば当然当の出来事が起こってくる、ってことにすることでした、ね?


 前回はそうした、科学に「原因」とよばれる一点について、ビリヤードの例をもちい、つぎのことを確認しました。

  1. そんな一点(原因)は存在しないこと。
  2. そんな一点原因を特定しようとするとどうなるか


「状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因)は、当の出来事が起こったケースを複数集めてきて、それらに「共通している一点」として探せばいいんだって、医学はするってことでしたよね。けど、そんな「共通の一点」なんかこの世に存在しないってことでしたね(前記1)。


 それでも医学はそんな一点(原因)を特定しようとして、結果、こういうことが起こるとのことでしたね(前記2)。

  • (a)いくつかの都合の良いデータしか見ないで、誰かが出来事を何か一点のせいにする(当の出来事の原因を特定したことにする)*1
  • (b)後日、追試でその説の真偽を確かめようとした他のひとたちが、その説に都合の悪いデータを目の当たりにし、異議を申し立てることになる。
  • (c)出来事を一点のせいにすることはできないんじゃないか(当の出来事の原因などこの世に存在しないんじゃないか)と疑ってみることもなく、その誰かが挙げた一点を、探し求めている一点(原因)の一片であることにしておき、原因特定作業をやり直す。
  • (d)そうして(a)から(c)のくり返しが何度も起こり、探し求めている一点(原因)の一片とされるものがやたらめったら増えていく  


 今回はその実例をちょっと見てみましょうか


 少しまえのところで、統合失調症と診断された男性患者さんに登場してもらったじゃないですか。せっかくですし、その統合失調症を見ることにしません?


(参考:統合失調症の男性患者さんに登場してもらった回)



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*1:2019年6月24日に、この一文を1箇所訂正しました。

原因を特定しようとして医学がハマるいつもの繰り返しについて確認する〈3/3〉

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第8回


◆都合の良いデータしか見ないで原因を特定する

 9番ボールがコーナーポケットに落ちるという出来事を例に、いまこういうことを確認しましたよ。


 出来事を或る一点のせいにするというのは、その一点を状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因)ってことにすることである。そうして、その一点があれば当然当の出来事が起こってくるってことにすることである。しかし、出来事を一点のせいにすることはできない。したがって、「状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因)などこの世に存在しないということになる。実際そんな一点を特定するために複数のデータを集めてきてそれらに共通している一点を探してみても都合の悪いデータを無視したり誤魔化したりすることなしには、「共通の一点を見つけたことにはできない、って。


 これはどういうことですかね? どういうことだとみなさん思います?


 出来事を一点のせいにしているひとは都合の良いデータしか見ていないってことなんじゃないですかね? いや、もっと踏み込んで、出来事を一点のせいにしているひとは、「ほんのいくつかの」都合の良いデータしか見ていないと言うべきかな*1


 ともあれ、都合の良いデータしか見ないでいいんなら思いつきで何だって一点のせいにできちゃいますよ、ね? ほら現に、出来事を脳という一点のせいにする脳科学者本人も、何だって説明できちゃうことに驚いているじゃないですか。

 本書の主題は脳と心や社会との関係である。そして、心も社会も脳の「機能」だと主張する。この主張は今となってはほとんど当然のこととして(例外はあるが)受け入れられている。しかし、本書の初版が出版された当時(一九八九年)では、こうした考えは決して常識でも一般的なものでもなかった。


 ところが、その後「脳」は私たちにとって大変身近なものになってきた。現在では、週刊誌や月刊誌、あるいはTV番組でも、私たちの心や行動、社会、あるいはそれらの「異常」との関係で「脳」が登場するのはごく当たり前になっている。「なんでもかんでも脳」という傾向さえある。


 私事にわたって恐縮だが、一介の脳研究者である私のところにも「なぜ南国では性的に大胆になるのか?」「なぜセックスレスの男女が増えているのか?」「いじめはなぜ起こるのか?」「子供たちはなぜすぐキレるのか?」……といった問題を脳との関係で解説してくれ、という依頼・取材がかなり頻繁にある。お調子者の私は(貧乏暇無しの研究者のくせして)、そうしたややこしい質問をきちんと(何十分もかけて)脳のレベルで説明してしまい、そして、説明できることにあらためて驚いたりしている。質問者の方も「そーだったんですか、よーくわかりました」などと納得するのである。


 さすがに為替や株価の変動を脳レベルで説明してくれという依頼こそないが、少なくとも私たちの心や行動、社会現象を脳のレベルで説明すると妙に納得してしまう、という傾向が広くあることはたしかだろう(澤口俊之「解説」から。ゴシック化は引用者による。養老孟司唯脳論ちくま学芸文庫、1998年、p.263-264に収録)。

唯脳論 (ちくま学芸文庫)

唯脳論 (ちくま学芸文庫)

 


 (いくつかの)都合の良いデータしか見ないで、出来事を一点のせいにするとしますよ*2。するとその後、どうなります? 追試でその説の真偽を確認しようとした他のひとたちが、その説には都合の悪いデータを見ることになります、ね? で、その説の信憑性に異議を申し立てることになります、ね?


 露骨な言い方をすれば、こういうことが起こるんじゃないかってことですよ。現実をほとんど見ないで口にした思いつきが、後日、他のひとたちに、より広く現実と照らしあわせて検証された結果、デタラメだったと明らかになる  


 でも医学はおおむね、患者さんには超厳しくても、おのれには超甘いじゃないですか。追試によってデタラメであると明らかになったはずなのに、こういう理屈をこねて、それをデタラメじゃなかったことに最後します、ね? すなわち、追試によってその一点は、探し求めている一点(原因)ではないと明らかになったが、探し求めている一点(原因)の一片であることには間違いがないんだ、って。


 医学はこんなふうに、出来事を一点のせいにする見方をとっていることを反省することもなく、以後も、出来事を一点のせいにしようとしつづけます。そして、上記したことが新たにくり返されていきます。

  • (a)いくつかの都合の良いデータしか見ないで、誰かが出来事を何か一点のせいにする*3
  • (b)後日、追試でその説の真偽を確かめようとした他のひとたちが、その説に都合の悪いデータを目の当たりにし、異議を申し立てることになる。
  • (c)出来事を一点のせいにすることはできないんじゃないかと疑ってみることもなく、その誰かが挙げた一点を、探し求めている一点(原因)の一片であることにしておき、再度特定作業をやり直す。
  • (d)こうして(a)から(c)のくり返しが何度も起こり、探し求めている一点(原因)の一片とされるものがやたらめったら増えていく  


(このくり返しが、ガン研究に見られたのではなかったでしたっけ?)

裏切り者の細胞がんの正体 (サイエンス・マスターズ)

裏切り者の細胞がんの正体 (サイエンス・マスターズ)

 
(上記の翻訳者、中村桂子さんが、下記の著書で興味深いことを言っていますね。)
ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

 



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*1:2019年6月24日に、この一文を1箇所訂正しました。

*2:同上。

*3:同上。